203 : 夏休みのバイト6[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 20:53:37.34 ID:dLlXuy+O0 [6/11回(PC)]
3人とも「どういうこと?」という顔でお互いを顔も見合わせ、周囲を探してみたのだがやはりいない。
廊下の奥には扉が1つあったのだが、鍵がかかっているらしくビクともせず、そこにいるとも思えないので俺達は
ひとまず戻る事にした。
俺もAもBも訳が解らなかったし不気味だったが、作業は終っていないしもう日が高くなってきていたので、怖さを
紛らわすように荷物を運び出す作業を始めた。
昼飯中、Bがボソっと「面接もなしに即決だったのとか、やたら待遇が良いのとか、作業するのが俺達だけで監督するやつも
誰もいないのとか、要するにこれが原因じゃねーの…?」と。確かにそうだ、俺達は今更ながらこのバイトがやたら不自然で
変な事に気が付いた。
Aが「今日だけ作業してさ、それで今日までの給料もらって帰らねえか?」と言い出した。
しかし俺はこういった「一応3泊4日の契約だろ?最後までやらなかったら給料払わないとか言われたらどうするよ、
それに、『良く解らない何か変なものがいるからもうやめます』なんて通用すると思うか?実害も無いのに」と。
AもBも「そうだよな…」と言い、とにかく早く終らせてしまおう、そしてバンが来たら一応事情を聞こうという話になった。
夕方、とにかく早くこの場を去りたい俺達は必死で作業を頑張り、2軒目の荷物もその日のうちにほぼ全て外に出した。
バンが来ると、乗っていたおじさんに俺達はそれとなくここで変な事がないか聞いてみたのだが、どうもおじさんも
頼まれて来ているだけでここのことは良く知らないらしい。
俺達は結局何の情報も得られないまま最後の夜を迎える事になった…
今から考えると、名刺を渡されていたのだからさっさとそこに電話すべきだったのだが。
204 : 夏休みのバイト7[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 20:54:30.37 ID:dLlXuy+O0 [7/11回(PC)]
その夜、事件が起きた。
俺とAがリビングでモンハンをしていると、風呂に入っていたBが飛び出してきて「おい、やべーよ!またあの音するぞ!」と
言ってきた。
時間は夜の10時頃。
Bが言うには、風呂から上がって服をきているときに、脱衣所の窓からズル…ズル…と昨日と同じ音が聞こえてきた
らしく、大慌てでこっちへ逃げてきたらしい。
俺達は今度こそ音の正体を突き止めなければと、玄関にあった懐中電灯を片手に外へ出てみることにして、準備をすると
外に出た。怖さも勿論あったが、実害は今のところ無いし、恐怖心よりも好奇心のほうが勝ったからだった。
これがいけなかった。
外に出ると、昨日と同じでやはり何か1mちょっとくらいのものが動いている。
懐中電灯を向けようとすると、それはそのまま隣の別荘へとスッと入っていってしまい見えなくなった。
いなくなったほうへ行くと、別荘の鍵はかけたはずなのになぜか玄関のドアが開いている。
とにかくここにこうしているわけにも行かないし、何より鍵を閉めたはずなのに空いているのは事実なのだから、中を
確認しないわけにも行かない俺達は、3人で目配せすると中に入る事にした。
中に入ると、元からかび臭い建物ではあったのだが、それ以外に何か生臭いような変な臭いが立ち込めている。
異様な雰囲気の中、俺は廊下の電気をつけようとスイッチを探していてある事に気が付いた、玄関の横、靴箱の上の壁に、
花瓶が死角になって今まで見えていなかったのだが、明らかにそれと解るお札が貼ってあり、電気をつけて良く調べてみると、
そこだけでは無く廊下の天井にもお札が貼ってあるのが解った。
俺とAとBは「やっぱそういうことかよ…」と顔を見合わせた。
するとその時、廊下の曲がったほうの奥、例の瀕死の猫がいたところあたりからギィ…と扉が開く音がした。
あの先には例の鍵がかかっていて開かなかった扉しかない。
そして、廊下の曲がり角からベチャ…ズズ…ベチャ…ズズ…と何かを引き摺るような気持ちの悪い音がしてきた。
俺達は完全にビビってしまい、何も喋れず動けずその場で立ち尽くしていると、廊下の角からこちらを何かが覗き込んだ。
俺達は息を飲んだ。
205 : 夏休みのバイト8[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 20:55:02.82 ID:dLlXuy+O0 [8/11回(PC)]
それは人間の子供サイズの日本人形だった、日本人形の首だけが無表情に廊下の角からこちらを覗き込んできている。
俺は「…え…ちょ…」と声にならない声を出しながら後ずさりし始めた。
AもBも同じで、あまりにも不気味な光景に後ずさりしている。
人形は一度首を引っ込めると今度は体全体が廊下に出てきたのだが、その姿は身の毛もよだつという言葉がまさにぴったり
来る異様さだった。
上半身は和服を着た大きめの日本人形なのだが、下半身は何か真っ黒のベタベタしたヘドロのような物体に埋まっており、
引き摺っているように見えたのはそのベタベタした黒い物体の後ろのほうだった。
その黒いヘドロのような物体は、まさに俺達が昼間みた物体そのものだった。
人形はなおもこちらに近付いてくる、そして近付くにつれて鼻をつくような生臭さが漂ってくる。
俺達はなおもずるずると後ずさりし、玄関から外に出たのだが、その時俺はある事に気が付いた。動揺していてそこまで
気が回らなかっただけだとおもうのだが、この人形、何か歌いながら近付いてくる、耳を澄ますと、民謡の手毬歌のような、
でも良く聞いてみるとお経にも聞こえるような、不思議で不気味なフレーズの歌を歌いながら近付いてくる。
結構近くで聞いているはずなのだが、何故か歌詞はわからないのだが…
俺たちが後ずさりして道のあたりまで出た時、Bが「おい、やべーよ!」と俺とAに森のほうを見るよう促した。
俺とAが森のほうを見ると、あちこちの藪がガサガサと揺れている、何か沢山の物がこっちに近付いてくるようで、
その数はどんどん増えてきている。
更に、そのガサガサ言う音に混じって、人形が歌っているのと同じフレーズの歌があちこちから聞こえ始めた。
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