276 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:25:12.10 ID:C0RJjG3V0 [7/11回(PC)]
這う音は、ぴたりと止まった。 

 気づかれてしまったのだ。 
この些細な失敗にすっかりとりつかれた私は、涙でも流していたのだろうか。 
それでも必死に取り繕おうと息を懸命に殺し、そして耳に神経をあつめた。 
 だが、それ以降、時計が神妙に刻む針の音以外に子供部屋に響く音はなく、 
私は序々に平常心と安堵を取り戻す。 
 驚いたのか、帰ったのか、 
まさか布団をめくればそこに顔があるなんてこと・・・・まさか、まさか。 
安堵の中で、「お化けなんかいるものか」というか細い安心材料にしがみつく。 
やがて、その結論がじわじわと頭になじんだ頃、かいた脂汗をどうにかしたくなった。 
 疑心暗鬼になっていても仕方なし、とりあえず、布団の外の空気が吸いたい。 
そうして、思い切って布団を取り払った。 
 ・・・・目の前には、ただいつもの天井、いつもの壁、何にもありゃしなかった。 
まだ夜の最中だというのに、長い長い夜が明けた気になったと共に、 
少しばかりのやってやった感。 
そして深く息を吐き出たのだった。だが。 

 ・・・り、ざり、ざり 


277 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:25:46.61 ID:C0RJjG3V0 [8/11回(PC)]
 全身を悪寒が駆け巡る。 
布団越しでない分いく分かクリアに聞こえる気がするその軽い音が、重く、聞こえる。 
身を強張らせ、吐き出したばかりの息も吸えず、ただ目の前の壁から目を逸らせなかった。 
耳を塞ぐことも侭ならず、その音を聞き続けるしかないのだ。 
 しかし、一度極限状態から安堵を潜った精神には、少しばかりの隙間があった。 
もしかしたら、これは千載一遇のチャンスなのではないかと。 
ここまで来たのなら、最早奴の正体を暴くべきではと。奴の、大したことない姿を。 
 布団の外の空気を吸って、現実的になった脳で考えた案。 
その時は、何だって受け入れることが出来る気がしたのだ。 
 そして、勢い良く・・・・と言うにはあまりにもぎこちない動きで、下へ首を向ける。 
 そこには、幾ばかしか散らかったいつもの部屋があった。 
・・・・なんだ、と心に安心がもたらされた、望んでいた結果、至極当たり前の結果。 
それを飲み込もうとした、その時。 
 凝らした視界のその中に、それが、蠢いていた。 
 心臓が破裂せんばかりに飛び上がる。 
ざり、ざり、ざり、耳に届く一定の音と共に、それはひとつの関節をめいいっぱい動かしながら畳の目を刻むように進んでいた。 
芋虫なんかじゃない!即座に思う。 
夜の闇の中、白いそれは尚不器用に動く。そして、闇に慣れた目が気づく。それには―爪があった。 
 つまり、こうである。夜の闇に蠢くそれは、人の指であると。



278 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:26:15.08 ID:C0RJjG3V0 [9/11回(PC)]
 人間の第二関節までが、ひとりでに動いていた。 
最早肉があるとか骨があるとかかさぶたがあるとかそんなどころではなく、 
兎に角その人の指は、断面をこちらに背を向け、ひたすらえっちらおっちらと微々たる歩みを重ねていた。 
 最早凍りついた思考で呆然と眺めていた。 
見ようによっては滑稽な姿ではあるが、それは呪われているとしか言いようが無い光景だった。 
 指がこちらを向いていないのは幸いであるが(そもそも目なんてどこにあるというのか)、 
その猿の手のミイラがずるずると這うのを彷彿させるそれは、一体どこへ向かっているのであろうか。 
 ・・・・気づいてしまった。 
指が向かうその先にあるのは、あの放り捨てられた青い箱だった。 

ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、 
 もう夜は明けないのではないかと、気が遠くなるような時間が過ぎた。 
最早、時計の音すら耳に入らず、指の方へと決して目を向けることなく、 
指があの青い箱で何をするかも見ることは出来ず、 
指が畳を這う音に耳を傾けながら、 
いつしか私は、眠っていた。



279 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:26:32.36 ID:C0RJjG3V0 [10/11回(PC)]
 その箱を、その後どうしたかは定かではない。 
その次の日、わき目も振らずトングでつかんでゴミステーションに捨てたのか、 
それともその後の大掃除で他のがらくたと共にゴミ袋へと行ったのか、 
僅かな可能性の話だが、倉庫のおもひでダンボールの奥底に眠っているとも限らないかもしれないが。 
とにかく今となっては、私の目に見える場所にはない。あの連夜が夢か幻かも確かめる術は無い。 

 結局あれが何だったのか、分からないのは申し訳ないが、 
きっと私が勇気ある少年だったとしても暴く事は叶わなかったのだろう。 
何せ指である。聞いて口が聞けたらギャグだ。 
 しかし、その後御祓いなどをしたわけでもなく、 
それ以上の指に纏わる怪現象を体験することはなかった。 
あの神社には、夏祭りにでも寄った際、拝殿に静かに手を合わせ、あの指の成仏を願ったのみである。



291 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/07(木) 00:00:28.58 ID:C0RJjG3V0 [11/11回(PC)]
以上、昔の記憶を書き起こしたものなので多少文章にするにあたり仮構の部分もありますが、 
帰省先の田舎の伝説でもなければおどろおどろしい顔の女でもないですが 
ここの趣旨に合った話であれば幸いです。 
あまりオカルトテイストな文章だと胡散臭いと思ったのですが、 
文面に工夫が無くて申し訳ない。 
話自体は飛びぬけたものではありませんが、 
同じような話があると、面白いですね。長文お邪魔した。もし足元に指がいたらよろしく。