272 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:22:27.06 ID:C0RJjG3V0 [4/11回(PC)]
 しばらくは、少々の罪悪感に悩まされることとなる。 
人の敷地、それも神様のいるところから人工物を持ち出してきた、 
明らかに神社の備品ではないような箱ではあるが、罪悪感に苛まれている私にはそこまで頭がまわらず、 
実は神聖なものではないだろうかとか、そんな窃盗妄想に暮れていたのである。 
 だが持ってきたものはしょうがない、砂をおとして、それは結局大事にしまわれた。 
ワインのコルクや小石や貝殻といっしょに。 
 しばらくしてからだった。罪悪感も、その箱の存在も度々思い出す程度になったころ、 
それはいつものように布団の中にもぐりこんだ時だった。 

 ざり、ざり。 

 それはかすかな音だった。 
が、しんと静まった部屋の中で、それは確かに聞こえるのである。 
 私のベッドは2段ベット(と呼んではいるものの実際は机と棚の上にある高床ベット)で、 
もし床の畳に布団をしいていたなら、それを本当の耳元で聞かなくてはならなかっただろう。 
それは下から響いてきた。 
 虫だろうか?いや違う。虫は確かに湧くけど、あのような、畳を引きずり這うような音はしない。 
 ざり、ざり、私の頭の中は様々な思考を布団をかぶったまま巡らしたが、 
この状況に対する利口な策を練るわけでもなく、ただ自分の小さな恐怖を拡張したに過ぎなかった。 
 結局、私はいやな脂汗をかくだけで夜を明かした。 
どんなに恐怖しても、いずれは眠れるものである。


273 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:22:48.86 ID:C0RJjG3V0 [5/11回(PC)]
 きっと、あれは新種の悪夢だったのだろう。 
当時の年頃だと、よく悪夢というものも見る。 
その類だと頭の中で押し付けるように自己解決した。 
 しかし、悪夢というのは現実でみるものであると思い知らされるのである。 

 その後、度々私は布団の中で音を聞くようになる。 
乾いた畳の上では、その小さなものが引きずるような音はちゃんと響いては布団越しに耳に届く。 
小さな音ほど聞きたくなくても聞こえるもので、時計の乾いた音と共に私の安眠を遮った。 
毎日ではなかったものの、私はいつしか布団を深々とかぶるクセがついた。 
そしてその音を聞いた後には大抵さらに嫌な夢を見るもので、更に後味の悪い目覚めとなるのだった。 
 今まで、被った布団をめくれないほどの恐怖を味わったことがあっただろうか、結構あった。 
何せ絵になるような古い佇まいの家である、 
霊感などは一切自覚はないが、ギシギシだの、ひゅうひゅうだの、そういうのは日常である。 
しかしながら、あの音はおかしい。おかしいのだ。 
 夜な夜な、その音を聞くか聞かないかで恐怖した。 
今日は悪い夢を見ませんようにという祈りの変わって、あの音を聞かずに寝れますようにというのが当分の切実な願いだった。 

 ある日、私は部屋でいつものように遊んでいた。 
そしてふと、何気なく宝箱を取り出してきた。つまり、ガラクタ入れである。 
 小石の詰まったビン、貝殻のふくろ、星模様のついたコルク、 
思い出がつまっているのだかつまっていないのだかわからない内容の中、 
あの時拾った青い箱を手にとった。 
 ? 
 手のひらサイズの長方形の箱、中にはクッション。 
この宝箱に入れる際は、ちゃんと、土をおとした筈だった。 
青い箱の外側は、土ひとつついていない。が、クッションの上に、ふと赤茶のよごれができているのである。 
 それは微かなヨゴレであったが、妙に生々しい色が印象的だった。 
何が生生しいかは説明できないが、 
そう、それはそこらの貝殻の土がついたものではなく、まるで、そのクッションに何か置いたような跡。 
 はじめて罪悪感の他に芽生えた、気味の悪さ。 
私はそれ以上その箱に触れたくはなかった。虫でもいたのかもしれない。 
その青い箱は、部屋の隅に投げ出されたままにされた。



275 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2011/04/06(水) 23:24:47.06 ID:C0RJjG3V0 [6/11回(PC)]
 夜が来た。私は習慣でふとんを被る。 
長い間あの音に苛まれている気がするが、実は実際あの音を聞いたのは数回なのかもしれない。 
しかし、聞こえることに変わりは無く、夜が昼とは比べ物にならないほど長かったのだ。 
 私はいつかあの音がぴたりと止むことを望みながら、 
心の奥底では静かに実はあの音を待っていたのかもしれない。 
しかし、奇怪な音の正体を暴くには、あまりに私の心は震えていた。 
 布団の暗闇の底に立てこもり、息を殺し、僕はいない、僕はいないと存在を消す。 
そして、 

ざり 

 それはいつものように、どこからともなくやってきた。 
しかしいつもと違ったのは自分の方で、その音が不意に耳に響いた瞬間、私は小さく反応をしてしまったのだ。 
布団が私の身にあわせて擦りあう音は、ざり、ざりという怪音よりよっぽど身に響いた。 
子供部屋に、響いた。