334 : 死の彫刻(6/10)[sage] 投稿日:2011/02/09(水) 03:13:57 ID:o9/UWy+S0 [3/3回(PC)]
小屋の中に居たメンバーも手に持った彫刻を抱きしめながら次々に窓から飛び降りて、 
予想よりも間近に迫ったその人物の異様さに恐怖を感じながらも命からがら逃げ出した。 
他のメンバーよりも足の遅い俺は、見張り役をしていたことに感謝しながらも、 
仲間の安否を気遣って後ろを振り向いたが、全員が何とか男の手を逃れてこちらに向かって走って来る。 

栗本の的確な事前指示により自分の自転車が帰りの方向へ向いていることを感謝しながら飛び乗ると、 
そのまま躊躇いなくペダルを漕ぎ始める。 
真っ先にその場を離脱し、心にゆとりが出来たのでもう一度全員が無事に逃げきれるか確認した。 

他のメンバーも両手に抱えていた彫刻作品を前籠にぶち込むと、必死に自転車を漕ぎ始める。 
自転車が中々スピードに乗らず、メンバーの中で一番最後に脱出した塩崎の後方1m程度の所まで、 
その男が迫ってきていたが捕まる寸前の所でギリギリ逃げ切ることに成功した。 

追いかけて来た男は最初から最後まで不明瞭にくぐもったゾッとするような奇声を上げ続けていたが、 
完全に引き離した後も驚きのスピードで追跡し続けて来るのがわかった。 
俺達は脚がガクガクと震えながらも、全力で自転車を漕ぎ、それぞれが盗んできた彫刻の重さにフラフラしながら、 
なんとか逃げ出すことに成功した。結局俺一人が彫刻を手にすることが出来なかった。 

地元までスピードを落とさずに一気に戻ってきて、周囲に人の気配がない事を確認すると戦利品を持ち寄って確認をする。 
栗本が二つ目に選んだ彫刻は両目がくり抜かれ、鼻が腐り落ち、それでもなお何かを訴えようとしているような 
苦悶の表情を浮かべる女性と思われる作品だった。 

他のメンバーもそれぞれに不気味な物を持ってきていたが、栗本が持ってきたものに比べると 
それほどインパクトの強い作品ではなかったようだ。 
俺は手ぶらで戻ってきたのだが、栗本が「2個あるからお前の好きな方を一つやるよ」と提案してくれたにも関わらず、 
直感的な危機意識が働いて丁重に断ることにした。そしてみんながそれぞれに満足しながらその日は解散となった。

 
335 : 死の彫刻(7/10)[sage] 投稿日:2011/02/09(水) 03:16:15 ID:QZ6Vr1r10 [4/7回(PC)]
翌日学校で会った栗本は浮かない表情を浮かべて何か考え込むように教室に入ってきた。 
昨日一緒に行動した他のメンバーも栗本の様子がおかしい事に気が付き、みんなで栗本の席の周りを囲みながら 
どうしたのか聞いてみる。しかし押し黙ったまま頑として何も話そうとしない。 
仕方が無いので塩崎を残して他のメンバーはそれぞれの席に引き上げ、そっとしておくことにした。 
後で塩崎に何か情報が聞けなかったか尋ねてみたが、栗本は最後まで口を割らなかったようだ。 
そして、その日を境に栗本は学校に来なくなってしまった。 
担任の先生に聞いてみたが、先生も栗本家と連絡が取れないし、休んでいる理由がわからないという。 

その数日後、今度は塩崎、中島が二人揃って学校に来なくなってしまった。 
やはり担任の先生に確認してみたのだが、栗本の家庭は勿論、塩崎の家庭にも中島の家庭にも連絡が取れないという。 
金田と仲の良かった俺は、学校に来なくなり連絡も取れなくなった3人の事が偶然とは思えず、 
放課後3家族の家を順番に訪ねることにした。 

真っ先に栗本の家に行くが、チャイムを鳴らしても全く返事が無い。 
車が駐車場にあり、自転車もその横に何台か置かれていた。栗本の自転車も置いてあるのが見える。 
その駐車場は鉄の門扉で閉ざされていた。外から家を見るとすべての窓が雨戸で閉ざされている。 

塩崎の家にも寄ってみる。やはり塩崎の自転車が敷地内に置かれていた。 
栗本の家庭と同様に車も駐車場に入れられており、外から家の中の様子を見てみたが、 
やはりすべての窓が雨戸で閉ざされていた。インターフォンのボタンを押してみたが、まったく反応が無い。 
栗本家と塩崎家を見て、明らかに何かがおかしいというのが小学生の自分達にもハッキリわかった。 
完全に戸締りされており、まるでどこかへ旅行にでも出かけたような雰囲気だ。 

最後に中島家にも寄ってみた。 
前の2件とほぼ同様の状態だったのだが、唯一違っていたのは玄関先の石畳から少し段差になった下の部分に、 
先日中島が持ち帰った彫刻の一部と思われる欠片がいくつか四散していたことだ。



336 : 死の彫刻(8/10)[sage] 投稿日:2011/02/09(水) 03:16:57 ID:QZ6Vr1r10 [5/7回(PC)]
俺達は周囲を見回してから中島家の玄関先まで近づいて、割れた彫刻のかけらを拾い集めてみた。 
まるで頭が割れてバラバラになったような雰囲気だったが、その破片は不思議なことにお椀のような構造になっていて、 
中までギッシリと石が詰まっているわけではなかったのだ。 

外側は敢えて軽石のようなざらついた手触りに仕上がっていたのに対し、内側はまるで石膏のような滑らかさがあり、 
元から中が空洞になっていたことが容易に想像できた。破片を手にして元の形になるよう注意深く組み合わせてみたが、 
その想像を裏付ける結果となった。 
注意深く周りを見回してみたが、落ちていた欠片は5分の1程度で残りの破片は見当たらなかった。 

割れた部分をよく見てみると褐色味を帯びた薄汚い白で、 
その周りを白い石膏がサンドイッチするように張り付けられている。 
少し指でこすってみるとボロボロと剥がれたが、それを見ていた金田が「ヒッ!」と息を飲むような声を上げた。 
そして震える声で次のような事を呟いた。 

「この黄色い部分って、何かおかしくないか? これって…。これって骨なんじゃないの? 本物の…。」 
「おい、ば、馬鹿な事を言うなよ。本物の骨のわけがないだろ? こんなに黄色いんだぞ?」 
「だけど明らかに表面と裏側に張り合わされた石とは、色とか質感が違くないか?」 
「人の骨はお葬式で見たことがあるけど、焼いたらボロボロになるし、もっと白くてカサカサした感じだったぞ。」 
「それは焼いた場合だろ? これは焼かれたものではなくて生の骨の状態なんじゃないか?」 

そこまで聞くと急に恐ろしくなり、手に持った石のかけらが思わず地面へ滑り落ちた。 
ゴツッというような嫌な音を立てた後、カラカラと軽い音を立てて石畳の上を転がって行く。 
夕方になり周囲はいつの間にか薄暗くなり始めていた。



337 : 死の彫刻(9/10)[sage] 投稿日:2011/02/09(水) 03:17:38 ID:QZ6Vr1r10 [6/7回(PC)]
今ではぼんやりと3つの家庭が何かの事件に巻き込まれたのではないかと思い始めていた。 
盗んできた彫刻は金田の家にもあるはずだ。正直あまり関わりたくないという気持ちはあったが、 
このままでは絶対にまずいということで、金田を促し慌てて彼の家へ向かって走り始める。 

家に着くと金田は「ただ今」も言わずに玄関から家の中に入り、靴を脱ぎ棄てて階段を上り始めた。 
俺も「お邪魔します」などと悠長なことは言わずに、金田の後ろへ続く。 
そのままの勢いで金田の部屋へ上がり込むと、金田は押入れに隠した彫刻をそっと取り出した。 
それを隣の部屋から持ってきた新聞紙に包んでから買い物袋に入れ、再び無言で家を出る。 

そして近くにあったお寺まで駆け込むと、人目につきにくい境内の裏手に移動してから包みを開いた。 
道中二人で相談して、この彫刻を割ってみようという話で結論が一致していた。 
金田が彫刻を振り上げ、投げ落とそうとする直前で「待てっ!」という鋭い声が掛る。 

しかし金田は彫刻の重みで勢いのついた腕を完全に止めることが出来ず、 
勢いが若干殺されたまま、砂利石の混じる地面に落としてしまった。 
中途半端な力で地面に叩きつけられた彫刻は落ちた場所から大きく真っ二つに割れ、 
空洞の構造になった内部をこちらに覗かせた。 

声の主の方を反射的に振り替える。すると病的なまでにやせ細った中年男性が立っていた。 
その男性の顔は薄暗い闇の中に完全に隠れまったく読み取ることが出来なかったが、 
印象的で特徴のある白っぽいゆったりとしたパジャマのような不思議な服を身にまとっていた。 

俺たちは逃げ場を失い、声を出すことも出来ないほど完全に硬直していた。 
その男性は歩を緩めることなく、尚も近づいてくる。ようやく薄明かりの元で表情を読み取ることが出来た。 
その男の顔には疲れや無力感や怒りやその他、様々な感情の入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。



338 : 死の彫刻(10/10)[sage] 投稿日:2011/02/09(水) 03:19:37 ID:QZ6Vr1r10 [7/7回(PC)]
男 :「お前たち、その彫刻をどこで手に入れたんだ? それが何なのかわかっているのか?」 
金田:「こ、これは…。友達にもらったんです。何なのかは知らないけど、気味が悪いので壊して捨てようと…。」 
男 :「もう手遅れだ。それを壊してしまったら、決して後戻りは出来ないのだ。」 
金田:「あ、あの…。どういう風に手遅れなんですか?」 
男 :「君のご両親はいま私の仲間のところにいる。君は私に付いて来なくてはならない。」 
金田:「そ、それはどういう意味ですか? お父さんとお母さんは仕事に行ってるはずですが…。」 
男 :「今にわかる。君たち二人は兄弟ではないんだな? その彫刻を壊した君。君は私に付いて来たまえ。」 

そう言って我々に近づくと、割れてしまった彫刻を拾い集め、再度「怖くは無い。私に付いてきなさい。 
ご両親に会わせてあげるから…。」と優しく言ってからクルリと踵を返した。 

俺 :「あ、あの僕はどうすれば?」 
男 :「君はこれによく似た彫刻を持っていないんだろ? この彫刻の事はもう忘れなさい。寄り道せずに家に帰りなさい。 
    そしてこの彫刻を見つけた場所には決して近づかないようにしなさい。」 
俺 :「か、金田。一人で大丈夫か?」 
金田:「あ、あぁ…。とりあえず、栗本達も何かあったのかもしれない。あいつらに会えたら何があったのかを聞いてみる。」 
俺 :「わかった。それじゃあ俺は帰るからね。バイバイ!」 
金田:「バイバイ!」 

その時に交わした言葉が金田との最後の言葉になった。 
それから10数年後、長野県松本市で猛毒の神経ガスによる無差別テロが発生、さらにおよそ1年後、 
地下鉄で再び同様の無差別テロが発生し、教祖として話題となった人物の顔が毎日クローズアップされるようになる。 
その顔を見た瞬間、彫刻が無数に置かれたプレハブ小屋に祭られた人物の顔がフラッシュバックした。 
その後、俺はあのプレハブ小屋には近づいていない…。