861 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2011/03/06(日) 19:51:18.38 ID:DUOwwsCN0 [1/2回(PC)]
友人の話。 

彼は幼年期を山中の実家で過ごしたのだが、時々不思議な体験をしたのだという。 
小学校に上がったばかりの真冬日、とある一軒家の傍らを通り過ぎようとした。 
その時、板塀の向こうから「ザパァッ」と水の流れる音がした。 
背伸びをすれば届く位置に、良い塩梅に節穴が空いてある。 

「何してるんだろう?」 

好奇心から覗いてみた。 
向こう側は小さな庭になっていて、そこで誰かが行水をしていた。 
大人の女性だ。 
白い背中が柔らかく水を弾いている。 

慌てて目を離し、気付かれる前に逃げ出すことにした。 
しばらく走ってから、ハッと思い出す。 

「・・・あそこって確か、誰も住んでいない荒ら屋じゃなかったっけ?」 

間違いない、悪友とこっそり入り込んで、探検ごっこをした記憶がある。 
加えて今の季節は冬だ。 
とても行水などする者はいない。 
恐る恐る引き返して、もう一度中を覗き込んでみた。 

見えるのは、記憶通りの荒れた廃屋の姿だけ。 
あの裸身はおろか、置いてあった手桶や盥まで、影も形も無くなっていた。

 
862 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2011/03/06(日) 19:53:41.21 ID:DUOwwsCN0 [2/2回(PC)]
(続き) 
後に聞かされたのだが、彼が見たモノは“行水女房”と呼ばれていて、村では 
それなりに有名な怪であったらしい。 

怪と言っても、ただ背を向けた女の裸が覗き見えるだけのもので、何ら害はない。 
来歴は不明だが、いつの頃からか件の廃屋に出るようになったのだという。 
これを目撃するのは、決まって男性に限られていたとのことだ。 

以来彼が行水女房を見たことはなく、件の廃屋も現在は駐車場になっている。 

「今の俺だったら、双方納得がいくまで、しっかりと覗いてあげるのになぁ」 
彼は心底残念そうに嘆いた。