257 : 去年の出来事 3/5[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 01:14:00 ID:B9Z258Oh0 [3/6回(PC)]
「兄さん、兄さん」と知らない爺さんが俺の肩を揺すっている。 
パッと見に頑固そうな爺さんだったんで、イビキでもかいていて怒られるんだと思い 
「すいません」と謝ってしまった。 
爺さんは笑いながら「馬鹿言ってんじゃねえ。ちょっと聞きたい事があるから次の駅で降りな」と言う。 
俺は「???」となりながら、何となく「はあ」と言ってしまい。次の駅で爺さんと一緒に降りた。 

駅で降りてから、客先の訪問を思い出し、断りの電話を入れることになってしまった。 
爺さんは「あそこの店で休むぞ」と言って、駅前の喫茶店にどんどん入って行った。 
俺は訳がわからないまま店に入り、俺はコーヒー、爺さんはコーヒーとサンドイッチを注文した。 
店員が戻ると、突然爺さんが「兄さん死ぬぞ。自分でも何かしら自覚してんだろ」と言う。 
俺は何か急に涙が出てしまい、泣きながら「はい」と答えた。 
一連の経緯を話したんだが、爺さんは黙々と飲んだり食ったりしていた。 
食い終わった爺さんが「これから俺の家に行くぞ。ちょっと時間がかかるから、会社は早退しろ」 
と言うので、会社には出先で体調が悪くなり、病院に寄って帰宅するということにした。 

喫茶店を出て、爺さんの後を付いて家まで行ったんだが、爺さんは黙ったまま一言も喋らない。 
電車に乗り、さっき降りた駅より3駅先の駅の住宅街に、爺さんの家はあった。 
家に入ると、やさしそうな婆さんに挨拶し、和室に案内されてお茶を頂いた。 
爺さんは別の部屋に行っていたが、30分位すると数珠と経本を持って和室に現れた。 
俺の前に正座し、お茶を飲んだ後に話し始めた。 

「今まで良く生きていたな。兄さんのお守りさんの力がなかったら、 
俺と会うことも無かっただろう」 

俺はまた涙が出た。 

 
258 : 去年の出来事 4/5[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 01:16:22 ID:B9Z258Oh0 [4/6回(PC)]
「俺はな、○○寺の次男坊なんだよ。小さい時から経文を読んだり、親父の真似事をしてる内に 
自然と目に見えない物が見えて聞こえるようになった。だけど、そんなに強い力がある訳じゃねえ。 
電車に兄さんが乗って来た時から、かなり性質の悪い物に魅入られてるのが分かった。 
まともに相手したら俺なんか直ぐに憑り殺されるだろ。兄貴だったら何とでもなると思うが、 
死んじまってるし、跡継ぎは役に立たねえ。だから、初めの内は見なかったことにする気だったんだよ。 
兄さんはその男が原因だと思ってるけどな、本当におっかねえのはな、その男を憑り殺した奴なんだよ。 
男が落ちたのも偶然の事故じゃねえ。兄さんの上に落ちて殺そうとしたんだよ。 
そうやってどんどん殺して取り込んで強くなる。ああなったら手が付けられねえ、何でもかんでも 
見境なく殺しやがる。そんな奴の気配が兄さんの周りにあったんだ。 
だけどちょっと様子が妙だった。気配はするんだが、残りカスみてえなもんだ。 
気配を探ってくと、お守りさんが必死になって兄さんへの干渉を食い止めてるんだ。 
お守りさんは、そっちの相手をするのが精一杯で、変な男の相手をしてる暇がねえんだよ。 
それで、兄さんは変な男の影響をもろに受けちまった訳だ。 
今のうちなら、その変な男を払って、おっかねえ奴と兄さんとの縁を切っちまえばいい。 
これなら俺でも何とかなると思ったよ。それで、居眠りしてる兄さんを起こしたんだよ。 
助けられる者を見捨てるのは、気分の良いもんじゃねえからな。」 

俺が泣きながらポカンとしていると、 

「言ってみりゃ、兄さんを捕まえようとしている化物がいる。必死にこっちへ手を伸ばして 
いるんだが、障害物に隠れて良く分かってねえし、手もうまく突っ込めてねえ。 
手の指先に兄さんが引っ掛かってるんで、何とか掴もうとしてんだ。 
障害物が兄さんのお守りさんだ。指先が兄さんが見てる変な男。 
縁て言うのは、兄さんがそこに居ると化物が知っている事って例えになるのかな。 
だから、障害物が壊れないうちに、指先をぶった斬って、兄さんを隠しちまえば良いんだ。 
そうすれば、化物もあきらめて次の獲物を見つけに行くよ。その位なら俺にもできるってことだ。」 

そう言われて、すごく納得した。