254 : 去年の出来事 1/5[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 01:06:09 ID:B9Z258Oh0 [1/6回(PC)]
長文ですまないが、1年経って、やっと冷静に思い出すことが出来るようになった出来事がある。 
去年のちょうど今頃の話だ。 

その日は金曜日で、俺は会社の同僚数人と何軒かの店をハシゴして、すっかり良い気持ちだった。 
当然、終電は既に無く、3人の同僚と一緒にカプセルホテルに向かった。 

カプセルホテルに入り、フロントで人数を告げると、2部屋しか空きが無いという。 
仕方がなく、一番先輩である自分と、家が比較的近くてタクシーでも同程度の料金しか 
かからない奴が諦めることになった。 
カプセルホテルを出た所で、同僚はタクシーを捕まえるため駅方面に向かうので別れた。 
俺は、もう一軒あるカプセルホテルに電話をかけて空き状況を確認した。 
幸い空きがあるとの事だったので、そこに向かおうと歩き始めた。 

カプセルホテルの入口から10m程歩いた所だったと思う。 
何でかは判らないが、俺は突然立ち止まったんだ。 
その2-3秒後、目の前3m位のところに人が降ってきた。 
「グシャッ」という音がして、男が仰向けの状態になってピクリともしない。 
突然、訳が判らない状況に陥ると、思考停止になるんだなと実感した。 
1分位は突っ立ったままだったと思う。 
ようやく我に返り、男に「大丈夫か」と言いながら近付いた。 
近付きながら、「あ~こりゃ駄目だ。嫌なもんに関わっちゃったな」と感じた。 
まず、頭の位置がおかしい。直角に90度曲がっており、右側頭部かぼっこりと凹んでいる。 
結構な量の鼻血が出ていた。年齢は50前後の、どこにでも居そうなオヤジだった。 
カプセルホテルの浴衣を着ていたので、直ぐにホテルに駆け込んで、フロントマンと一緒に確認した。 
その後は救急車の手配、警察の事情徴収などで2時間近く拘束された。 
確かにカプセルホテルに宿泊中の客であり、3階の食堂の窓が開いていたことから、 
俺はただの目撃者ということになり、免許証と勤務先を確認されて開放された。 
時間も4時を過ぎており、今更カプセルホテルに泊ってもしょうがないので、漫画喫茶で 
仮眠を取ろうとしたが、目が冴えてしまって結局一睡もできなかった。

 
255 : 去年の出来事 2/5[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 01:10:50 ID:B9Z258Oh0 [2/6回(PC)]
嫌な夢を見始めたのは、その晩からだった。 
真っ暗闇の中で俺は立っている。やがて「グシャッ」という音とともにオヤジが目の前に落ちてくる。 
オヤジはゆっくり立ち上がると、頭を左右にカクカクさせながら俺に近付いてくる。 
逃げようと思っても体が動かない。目の前でニヤーッと笑いながら俺に抱きつく。 
抱きつかれた途端に、オヤジと一緒に深い深いところに落ちていく。 
「落ちる」と思った瞬間に目が覚める。寝直すとまた同じ夢を見る。そんな夢を一晩に5-6回は見た。 

毎晩同じ夢を見た。最初は怖ろしかったが、怖ろしさは直ぐに慣れる。 
それよりも、毎回毎回同じ夢を見続けるために、寝るのが苦痛になった。 
また、夜だけではなく電車の中でウトウトしていても夢を見るので休まる暇が無い。 
翌週の水曜日だったと思う。同僚が「今夜飲みに行こうぜ」と言ってきたので居酒屋に行った。 
日毎にどんどん顔色が悪くなっていくんで、体調が悪いのではないかと心配して話を聞きたかったらしい。 
流石に夢の話は出来なかった。最近よく眠れないと言うと、「それじゃ熟睡するようにどんどん飲め」 
って事で、しこたま飲んで家に帰り泥のように眠った。不思議と夢を見なかった。 
次の日から、毎晩浴びるように酒を飲んだ。もちろん翌日は二日酔いになるが、夢の方が嫌だった。 
そんな生活が続けられる訳も無く、仕事に支障をきたすようになった。 
遅刻を繰り返し、営業中にサウナで酒を抜くといった日々になってしまった。 
当然上司から叱責されたため、酒をやめたんだが、途端に夢を見るようになる。 
心底まいってしまって、精神科への受診も考えるようになった。 

酒をやめてから1週間位たったある日、営業先へ行く途中の電車でついウトウトしてしまった。 
真っ暗な中立ち尽くす俺。またかと思ったが、その時の夢は違った。 
いつもはカクカク、ニヤニヤしながら近付いて来るオヤジが、頭を倒したまま目をカッと見開き、 
歯を食いしばったまま一歩も近付いて来ない。その内、口を開いて「アーッ、アーッ」と言いはじめた。 
そこで俺は誰かの呼ぶ声に目が覚めた。