342 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/22(金) 22:20:09 ID:mvxwPn920 [3/4回(PC)]
「アメーバって知ってるだろ。それが物を侵食する・・・・・・食作用、って言うんだがな。まあ、連中の食事だ。その時、仮足と呼ばれる突起を出す。偽足とも言うが」 
何の話だろうか。 
俺は生物は好きじゃない。 
理数系ではあるが、どちらかというと物理が得意なのだ。 
「その突起で物を侵食するんだよ。飲み込むんだ。じわじわとな。あの女は、それだ」 
「つまり、ルアーとか、そういう物だと考えていいんですか。あの人は」 
「お、いい例えだ。先駆けだな。お前には見えないんだろうが、あいつの後ろにはわけのわからん物がいるぞ。黒くて、どろどろした、取り込まれた奴らの固まりがな」 
彼女に興味を持ってしまうと、引き込まれるのだろうか。 
より多くの人を引き込む為に、少しでも感覚の鋭い人には見えるようになっているのだろうか。 
わからないことばかりだ。 
「あいつらは仲間を探してるんだ。一人でも多く。あの交差点、結構事故多いだろ。つまり、そういうこと」 
俺はなんだか嫌だった。 
あの人がそんな事の為に存在していると思いたくない。 
「でも、それなら俺に近い歩道で居た方がいいんじゃないですか。今日は逆側に移動してましたけど」 
先輩は鼻で笑う。 
「あいつらの考えてることなんてわからないよ。お前があれにどんな感情を持っているかは知らん。けど、俺は事実を言っただけだ。アドバイスは『関わるな』だよ」

 
343 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/22(金) 22:23:10 ID:mvxwPn920 [4/4回(PC)]
帰り道、俺はあの交差点を通った。 
彼女は見えない。 
俺はもしかしたら、顔も知らない彼女に恋をしていたのかもしれない。 
それは、人を取り込む為の能力が俺に影響していたのか、それとも俺自身の感情だったかはわからない。 
横断歩道の向こう、今朝彼女が歩いていた歩道を眺める。 
俺はその光景を目に焼き付けてそっと目を閉じる。 
瞼の裏の残影には、こちらを向いて寂しそうに笑う彼女が映っていた。 
「・・・・・・じゃあね」 
俺は、横断歩道の向こうに手を振った。 
瞼に残った彼女の顔は、やっぱり、とても綺麗だった。 

向こう側の少女 終