100 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/16(土) 22:16:59 ID:lZM9Igr50 [4/10回(PC)]
ヨーコさんは首を振った。 
「おいおい。一見すればわかるだろう。ほら、ベッドの下に人が入れる隙間なんて見えるか」 
先輩に言われてベッドの下を覗いて見る。 
確かに、10cmにも満たないような隙間しかない。 
「そんな所に入っていけるようなヤツは、警察になんとか出来る相手じゃない」 
ヨーコさんが溜め息をついた。 
「だから、この人に相談したわけ」 
先輩がくすぐったそうに体を揺する。 
頼られて嬉しいのだろう。 
そしてやっぱりヨーコさんは頼りたく無かったのだろう。 
寝室に入れるのも嫌だったのかもしれない。 
「さて問題はこれからだ。ヤツはいつ出るかもわからないし、どんな物かもわからない。だからとりあえず、昨日の状況を再現してみようか」 
要するに? 
「つまり、ヨーコさんに寝てもらうって事ですか」 
ヨーコさんの頬がひくりと動いたのを俺は見逃さなかった。 
楽しそうな先輩を見ながら、俺はヨーコさんに耳打ちする。 
「……あの、一応俺もいますし。先輩、多分ヨーコさんよりお化けに興味あると思うんで」 
安心してください。心配はわかりますが。 
ヨーコさんは頷いてくれた。 
「着替えるから、一回出て」 
俺は名残惜しそうな先輩を連れて寝室を出た。 
「先輩、実際の所どうなんですか。見当付いてたりしないんですか」 
先輩は少し難しい顔をしていた。 
「実際の所、皆目だ。何も見えないし感じない。かなり変わり種なのか、それとも、相当上等なヤツかどっちかだろうな」 
驚いた。 
先輩の感覚に引っかからない相手なんて、この時が初めてだった。 
嫌な想像が膨らんでいく。 
しかし俺の妄想は、ヨーコさんの声でかき消された。 
「着替え終わったよ」 
部屋と同じ、淡いピンクのシンプルなパジャマだった。 
うん、可愛らしい。 
先輩がまた少し興奮したのがわかった。

 
101 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/16(土) 22:18:51 ID:lZM9Igr50 [5/10回(PC)]
「じゃ、寝ます。見ててね」 
仰向けにベッドに入ったが、暫くして壁に顔を向けて横向きになった。 
まあ、視線が気になるのだろう。 
さらに暫くして、小さく規則正しい呼吸音をたてはじめた。 
どうやら眠ったらしい。 
寝付きはいいようだ。 
「……お前、いつここに来た」 
寝付いたのを確認して、先輩が小声で言う。 
「あの、以前、たまたま近くで会って……お茶でもどうだって言うので、その」 
気まずい。 
嘘はついてないし、何か特別なイベントがあったわけではないが。 
「一回か」 
「……いえ、それからも何度か」 
「お前、なんで」 
不意に、破裂音がした。 
大きな音が一つ、続けて小さな音が二つ。 
かなりの音量だったにも関わらず、ヨーコさんは眠り続けている。 
「先輩、今のは」 
先輩は既に立ち上がり、拳を握り締めている。 
「起こせ」 
「は?」 
「ヨーコ起こせ!早くしろ!」 
突然大声を出され、反射的に立ち上がる。 
「う、あ、ヨーコさん!起きてください!」 
肩を掴んで激しく揺さぶる。 
反応は無い。 
「起きません!」 
先輩はさっきまでの真剣な表情から一変、黒い笑いを浮かべていた。 
「ならいい。かつぐなりなんなり、とにかくこの部屋から連れ出しておけ。俺は片付けておくから」



102 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/16(土) 22:20:04 ID:lZM9Igr50 [6/10回(PC)]
ヨーコさんの膝の下と腋に手を差し込んで抱えあげる。 
俺は笑う先輩と、ベッドの下の隙間から見える手を残して寝室を出た。 
そのまま玄関を出て、ヨーコさんを廊下に座らせる。 
さっき、ベッドの下に見えたのはなんだったのか。 
泥のような色をした手。 
細い隙間から見えた片方の目。 
先輩はアレの正体がわかったのだろうか。 
「ヨーコさん、起きてください。ヨーコさん」 
抱えて走った時もかなり揺れたはずだが、ヨーコさんは全く反応をしない。 
顔色は青白く、まるで死んでいるようだ。 
辛うじて呼吸音が生存を教えてくれた。 
俺はヨーコさんの正面に座って待った。 
ただ待った。 
先輩か、ヨーコさんのどちらかがアレに勝ってくれる事を。 
そのまま十分ほど経った時。 
玄関のドアががしゃんと鳴った。 
急いで立ち上がり、玄関を開ける。 
内側に拠りかかっていた先輩が倒れこんできた。 
「ちょ、先輩!どうしたんですか」 
両腕を垂らして俺に体重を預けている。 
「追っ払った・・・・・・けど、もう限界だ。病院近くにあったっけ」 
よく見ると両腕に痣がたくさんある。 
右手の中指・小指がおかしな方向に捩れていた。 
「だ、大丈夫なんですか。どうしよう、救急車とか呼んだ方がいいですか」 
先輩が思った以上に重症に見えて、焦りが噴出してくる。 
俺がおたおたしている間、先輩はヨーコさんを眺めていた。 
「・・・・・・起きなかったのか。そういうこともあるか。あ、痛、た。まあ、痛いのは腕だけだから、歩いて病院行くよ。今・・・・・・10時か。閉まってるだろうなあ・・・・・・」 
ふらふらしながら歩いていく。 
追いかけようとしたら、先輩に止められた。 
「お前までいなくなったら、ヨーコが驚くだろ。起きるまで付き添うか、もう大丈夫だからベッドにでも戻してやれ」 
去っていく先輩は、いつになく男らしく正統派のかっこよさだった。