303 : 1/6[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 12:40:48 ID:2wgnOYMq0 [1/6回(PC)]
自分が勤めている会社の事業所は結構な田舎にあって、自分はそこから徒歩15分ほどの 
独身寮に住んでる。先週、同じ寮に住む35歳の先輩(Aさんとする)が亡くなって、 
葬式があったんだが、Aさんと同期の先輩(Bさんとする)から聞いた、その死に関する 
話が自分的に洒落にならなかった。 

そもそも、死に方が普通じゃないんだ。 

事業所から寮へは、事業所の裏門を出て住宅街を抜け、県道に出て少し歩いてから 
また細い道に入るというルートなんだが、その県道に直交して小川が流れていて、 
帰宅途中で橋を渡ることになる。Aさんは、その橋の下の浅い川に転落して死んでいたと 
いうことだ。橋と言ってもちっぽけな橋で、歩道の欄干から川面まで、せいぜい3~4 
メートル程度。足から飛び降りれば怪我すらしない高さだが、Aさんは頭から転落し、 
川底に頭を強く打って死亡したらしい。現場には争った後もなく、自殺だとしても 
そんな場所を選んで自殺するとは考えにくい。また、遺書などもなかったらしい。 
警察としても事件性があるという判断はしなかったようだが、どうにもおかしいと 
思っていた。 

住んでいる町から30キロほど離れたAさんの実家で行われた葬式はつらいものだった。 
35歳の一人息子を亡くしたご両親の様子はもう、見ていられないものだった。 
また、車に乗せてくれたBさんも、Aさんとはとても親しかったそうで、本当に悲しんで 
いた。自分は正直、Aさんとは個人的なつきあいはほとんどなかったのだが、ご両親や 
Bさんを見ていると胸が詰まってつらかった。 

そして、葬式の帰りのこと。Bさんはなんだか精神的に参っているようで、自分が 
運転を代わろうかとも思ったんだが、「大丈夫だ」とのことで、行きと同じく運転して 
もらっていた。しかし、途中、Bさんは不意に車を路肩に停めて、嗚咽し始めた。 

「Aは殺されたんだ」 

えっ?と言葉に詰まっていると、Bさんはぽつりぽつりと話し始めた。

 
304 : 2/6[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 12:41:30 ID:2wgnOYMq0 [2/6回(PC)]
事の起こりはAさんの死から2週間ほどさかのぼる。その日、AさんはBさんや他の 
仲の良い同僚と、事業所の正門前にある飲み屋で11時過ぎまで楽しく飲んでいた 
らしい。おひらきになって、飲んでいたメンツはタクシーやら代行やらで帰宅し、 
Aさんは徒歩で事業所を通り抜け、裏門を出て事業所裏の住宅地ににさしかかった。 
田舎なので街灯があまりない暗い道を歩いているとき、ふとAさんは違和感を感じて 
ある家の塀を見た。 

塀の上に顔だけ出してAさんを見ている人間がいた。思わず立ち止まってしげしげと 
眺めると、それは40ぐらいの女だったが、その表情が異常だった。ニヤニヤと 
いやらしい笑いを浮かべてAさんを見ていたらしい。 

Aさんは「なんだこいつ?」と思ったが、その家に住む精神を病んだ女なのだろうと 
判断して、興味を持たれても困るので目を合わせないようにして、その塀の脇を 
抜けて行った。塀から数メートル離れてから振り返ると、女はやはりAさんに向けて 
ニヤニヤ笑いを浮かべ続けていたそうだ。Aさんはせっかくの楽しい気分も台無しに 
なって胸糞の悪い思いで帰宅した。 

週明けにAさんから話を聞いたBさんは、関わり合いにならないように気をつけろよ 
と助言して、その話はそれっきりになったはずだった。 

しかし、四日後、Bさんは切迫した顔つきのAさんから、帰社後に例の飲み屋で 
話を聞いてくれと持ちかけられた。何か尋常じゃない雰囲気を感じたAさんは、 
その日に済ませたかった仕事を翌日に回して早めに帰社し、飲み屋へ向かった。



305 : 3/6[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 12:42:13 ID:2wgnOYMq0 [3/6回(PC)]
「何があったんだ?」 

「あの女がまたいた!ニヤニヤと俺を見てやがった。」 

「どこで?」 

「東京だ。山手線に乗っていたら、反対側のホームの人混みの中で、ゴミ箱の 
向こうから顔だけ出して、また笑ってやがったんだ。」 

話によると、日帰り出張の帰りの電車の中でそれを見たらしい。電車はもう動き 
始めていたため、どうすることもできなかったとのことだ。 

Bさんは、ここにいたって、Aさんが何か精神を病んでいる可能性を疑ったらしい。 
その精神異常者の女がAさんに執着したとしても、部外者にAさんの出張日程や 
出張先など分かるわけもなく、尾行していたとしても、Aさんがいつごろそこを 
通るか、どの車両に乗っているかなどを考えて先回りするなど不可能なはずだ。 
その女はAさんの幻想なんじゃないのか。 

「お前、何か悩んでいるんじゃないのか?」 

しかし、Bさんがそう聞くと、Aさんはその女のこと以外に悩みなどないと言う。 
実際、Aさんは仕事も充実し、プライベートでもとても楽しそうにしていたそうだ。 
Bさんは、訳が分からないながらも、とにかくそいつを見つけても危ないから 
近寄るな、としか言えなかったという。