391 : 1/3[sage] 投稿日:2010/07/20(火) 15:52:52 ID:06eWGmqi0 [1/3回(PC)]
ふと気が付くと、7人ばかりで蒸し暑いジャングルで、獣道のようなところを行軍している俺がいた。 
背中には38式。ただし弾丸は持っていない。背嚢はあるがやけに軽い。 
周りの連中はといえば、骨と皮ばかりの生気のない連中ばかり。ただ、目だけは異様にぎらぎらしている。 
俺の手足を見ると、彼等と同じように痩せ細っているようだ。多分、同じ様な顔つきなのだろう。 
そして、誰も喋ろうとはしない。黙々とひたすら歩いている。喋ると刺し殺されそうな雰囲気が漂っている。 
雰囲気に呑まれて、俺も無言でひたすら歩いている。 
ただ、ゲートルの中がやけに痒い。取り外して掻き毟りたいが、周りを見る限り、そんな暇は無さそうだ。 

小一時間ほど歩いたところで分隊長が手を上げた。どうやら休憩することにしたらしい。 
本来ならばここで食事をするのだろうが、あいにく誰も食えるものを持っていない。 
そもそも、ここ1週間ばかりは水だけで過ごしてきた。 
それ以前に食った物も、雑草や木の根など、食料と呼べるものではないが・・・。 
最後に米の飯を食ったのはひと月以上前か?それだって『おもゆ』としか言いようの無いものだったが・・・。 

他にすることも無いのでゲートルを外してみると、瘤のようなものができており、赤黒く腫れ上がっている。 
「痒みの原因はこいつか?」と銃剣で切り開いてみると、赤黒いヒルのようなものが出てきた。案外痛くないものだ。 
「こんな物でも腹の足しになるなら。」と出てきたやつを啜る。 
『ぐちゃり』とした歯の感触、口の中いっぱいに広がる血の香り・・・自分のとはいえ、あまり気持ちの良いモノではない。 

 
392 : 2/3[sage] 投稿日:2010/07/20(火) 15:54:12 ID:06eWGmqi0 [2/3回(PC)]
簡単な止血を行い、ゲートルを巻き直していると、斥候に出ていた奴が戻ってきた。 
「2キロほど先に一人で座り込む友軍の兵士が居た。」ということらしい。 
目的地へのルートからは若干外れるが「とりあえずそいつを収容しよう。」ということで、皆で移動することとなった。 
誰かが言った「食えるものを持っているといいな・・・」 
「礼の一つも欲しいところだな。」「米持っているといいな。」他の誰かが言った。こうなると言葉が止まらない。 
最初の、喋ると刺し殺されそうなあの雰囲気はどこへやら・・・ 

しばらく歩くと、それらしき人物が見えてきた。 
俺達の姿が見えたのか、口をモゴモゴさせているようだ。見方によっては笑っているようにも見える。 
「喋れないのか?」と思いつつ近づいていったが、何となくおかしい。 

近づいてみて、その違和感が何であるかを理解した。 
そいつは確かに皇軍の兵士だった。だが、だいぶ前にこの場所でこと切れていたようだ。全身が蛆で一杯になっていた。 
笑っているように見えたのは、蛆が動いて歯が動いているように見えただけなのだろう。 
ただ、こいつの冥福を祈る気持ちも、手を合わせる余裕も無かった。 
明日にでもこいつらの仲間入りをしかねないのだから・・・ 

俺達はその場にへたり込んだ。 



393 : 3/3[sage] 投稿日:2010/07/20(火) 15:55:11 ID:06eWGmqi0 [3/3回(PC)]
そのとき、蛆が一匹ポトリと落ちてきた。 
俺達の視線がその一匹に集中する。 
土の上でもがいているが、大きさはともかく、その白さはなんとなく米の色を連想させる。 
しばらくして誰かが言った「コイツ食えねぇかな?」 

皆、同じことを考えていたのだろう。 
7人とも各々の飯ごうに蛆を入れ始めた。 
近くの沢でそれをよく洗う。その間、誰も喋ろうともしない。 
洗い終わった蛆は真っ白で、まるで白米のようにも見えた。 
それを白米と同じ要領で火にかける。 
しばらくすると甘いような香ばしいような何ともいえない匂いが漂い始めた。 
皆、終始無表情でことを行っていた。 
結局、誰も一言も喋らなかった。喋ると気が狂いそうな気がした。皆、同じだったのだろう。 

出来上がったソレは何ともいえない香ばしくて食欲をそそる匂いがした。 
皆、無言でその蛆飯を胃袋にかき込んだ。 
全ての蛆飯を一粒残さずたいらげるまで誰も喋らなかった。ただ泣いていた。 
皆、ひたすら涙を流していた。 


・・・と、そこで目が覚めた。 

冷房もかけずに蒸し風呂のような部屋の中だった。(約35℃、体感温度はもっとあるかも) 

ただ、妙に生々しい夢だった。一体なんだったんだろう? 
ちなみに、両祖父は満州と内地(北海道)で終戦を迎えているし、命日ともまったく違う。