473 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:44:50 ID:dIgiHSiJ0 [5/26回(PC)]
…大枚に釣られてきてみれば、とんでもないものの相手をさせられる破目になったな。
こいつは、かなり異常だ。
この子の頭上に、所々ひび割れた小学校高学年の背丈ほどもある、オカッパの日本人形が鎮座している。
その人形の後ろ頭からは、腐ったブリキの兵隊が顔を覗かせ、足先には白い大蛇が巻きついている。
ひび割れた穴からは、時々何かが無邪気な目を覗かせたり、腐った手足が出入りしている。
心霊現象の見本市みたいなもんだ。
家神程度の、か弱い神霊も巻き添えで数体取り込まれているようだが…しょうがない。
おばさんから凡そは知らされていたが、この子は所謂"憑き護"ってやつに近い。
その体質ゆえに、今までの人生で関わってきたあらゆる他人の憑依霊や、
近くで起こった数々の心霊現象を吸ってきたのだろう。
おそらく、それが一つにまとまって、わけが分からないことになっている。
本来"憑き護"の能力キャパシティ内に収まるものなら
彼女の中で消化され消え失せるはずだが、何かが"蓋"をして塞き止めているようだ。
これでは吸い取った霊が消えずに、"憑き護"本人に被害が降りかかってしまう。
この子の声はまだ聞けていないが、眼を見る限り正気の澄んだ色をしていた、
これだけものを引き連れていて、よく心が壊れていないものだ。
「…じゃあ、いこう」
自分に号令をかけてから、右肩のお札シールを5枚まとめて剥がす。
"アレ"が発現する。いつもながらの黒い腕と上唇下唇のセットだ。
「ウア…ウ…マソウデ…ス…ネ…チイサナ…カミサマモ…タクサンイル…」
「まだ待て、少し様子を見よう」
「ウエヘヘ…オ…オヤサ…ンノオッシ…ャルトオリニ…」
大家さんとは言ったもんだ。珍しく言うことに従う"アレ"に少し気味の悪さを感じつつ
日本人形その他の複合霊と対峙する。
474 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:45:36 ID:dIgiHSiJ0 [6/26回(PC)]
「コノ子は私ノモのだ」
日本人形が気色悪いアクセントで話しかけてくる。
「口が聞けるとはね。知能があるのは宿主様に侵食し始めている証拠だ」
知能があるということは、どうやら日本人形がベース、というか塞き止める"蓋"の役割をしていて
その"蓋"に様々なものが吸着している形が正体のようだ。
「お前ノソれは何ダ。コの子ヲ脅かスものではナいのカ」
どうやら"アレ"のことを言っているらしい、よく喋る野郎だ。
「ならば問うが、お前もこの子を脅かしているのではないか。
お前は守護しているつもりかもしれないが、逆だ。
お前を中心に様々なものが、塞き止められ寄り集められ、
本来この子の中で咀嚼され、消化されるべきものが単なる重みになっている」
「ワれを祓ウ気か。ソれがコの子のたメにナルと思ウテか。
憑き護でアる限り、イツかは大きナモのに突き当たルのはサけラレぬ。
ソの時こノ子の生は終わル。我はソれを防グタめに在ル」
「それはある意味正しいが、だからと言って
この子の意欲や運まで奪うことは無い。
無責任な言い方かもしれないが、人間なら誰しもどこかで壁に突き当たる」
「それでも、解決できることの方が多いんだぜ。どちらにしてもお前はこの子の邪魔だろう」
これ以上、押し問答を続けていても時間の無駄だ。
「喰っていいぞ」
475 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:46:43 ID:dIgiHSiJ0 [7/26回(PC)]
「イタダキマァァァァァァァァァァァァススススススススススス!!!!!」
"アレ"は嬉しそうに、襲いかかる。
まず、日本人形に貼り付いていた霊を引き剥がしにかかった
バリバリバリと気味の悪い音をさせながら、ブリキの人形や白蛇を口の中に放り込む。
ほぼ無抵抗のまま、貼り付いていた者を喰い終わると
今度は人形にいくつか空いている穴に手を突っ込み、
亡者や亡霊を何体も引っ張り出しては食べている。
食べられる霊達の
「ヒィィィィィィィイィィイイ」「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
という悲鳴が響き続け、またそれを喰う"アレ"の
グッチャグッチャと良く響く、咀嚼音も気持ちが悪く
思わず耳を塞ぐ。耳栓、俺の分ももらっときゃ良かった。
日本人形は罵ったり、短い手足を振り回して抵抗するが
元々こういう事態に対応するための手段は無いのだろう、"アレ"は気にも留めずに食べ続ける。
唯一の抵抗手段である心霊現象の吸引は、相手が見たこともないほど強力なので通じていないようだ。
なんだ予想に反して楽勝だな。…しつこいけど耳栓さえあれば。
「オのれエぇぇぇぇぇえエぇぇええエエええええ!!!!!!!!!」
全ての霊を取られ尽くして、さらに下半身も無残に喰われた人形が
苦し紛れに俺に突進してくる。
ほいっ、と数十センチ横に避けてかわした、と思ったら
少しだけ避け損ねて、甚平の裾に僅かに人形の腕が触れた、
そこが焦げたように萎れて変色する。
"アレ"が逃さんとばかりに腕と指を伸ばし、上半身ごと鷲掴みにして、
そのまま両唇の間に放り込む。バキッバキャッと強く噛み砕く音が響き、
「ぎゃあああああああああああああ」
という断末魔とともに、日本人形は"アレ"の中に消えていった。
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