469 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:39:47 ID:dIgiHSiJ0 [1/26回(PC)]

"守護" 

私はYという。 
この部屋に引きこもって4年になる。きっかけはいじめ。 
とは言っても、世間一般に言われているような酷いものではなく。 
小学校のときから長年「ウザイ」とか「キモイ」とか、 
ちょくちょく言われ続けているうちに 
なんとなく中3で心が折れてしまった感じだ。 
今となっては、いじめっ子達にもとくに恨みはない。 
まぁ、私は友達もまともに作れなかったし、 
冷静に考えたら言われてもしょうがないかな、と思う。 

「Yちゃーん、お食事ここに置いておくわよー」 
お母さんが今日も、お夕飯を部屋の前に置きに来る。 
いつも私は無言を貫くが、両親には本当に悪いと思っている。 
懺悔をしながら、そおっと部屋の扉を開く。 
やった、今日はトンカツだ。でも太るからなーどうしよう。 
外との接点を持たなくなって長いのに、 
こんなことを気にする自分が少し、可笑しい。 
消化を良くする為に、少しずつ食べながら、 
つけっ放しのPCのマウスを動かす

 
470 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:40:43 ID:dIgiHSiJ0 [2/26回(PC)]
今日はニコニコも2chも面白い話題が無い。pixivで贔屓の絵師さんはどうだろうか。 
やはり更新が無くて少し落胆する…。 
マイリストに入れた初音ミクの曲で癒されそうなのを選んで 
音が漏れないようにヘッドフォンで聞く。 
時々テレビもつけるのだが、ネットと違って自分のペースで見られないので、 
すぐに煩わしくなって消す。 
あー私の人生どうしよっかなー。 
今すぐ死んだほうがいいんだろうけど、手首切る気すら起きないし、 
明日はニコニコで、好きな生主さんの放送もあるし 
まだ終わっていないシリーズもの動画もあるから、とりあえず明日までは生きてみよう。 
そう思いながら、一日が終わる。 

たまに、夢におばあちゃんが出てくる。 
おばあちゃんが生きていた頃は、私のことを良く見ていてくれたし 
学校から帰ったら、二人でお菓子を食べながら、色んな悩みも聞いてくれた。 
私が小学校を卒業まで頑張れたのは、おばあちゃんのおかげだ。 
でも、そのおばあちゃんは今はもう居ない。 
私が、中学校に入ってすぐに死んでしまったのだ。 
無理なのは分かっているけど、もう一回会いたいなぁ。 
死んだら会えるのかなぁ。なんてことをたまに考える。 

そんな私の何も無いけど、平穏な毎日が乱されたのはあの午後のことだった。



471 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:41:55 ID:dIgiHSiJ0 [3/26回(PC)]
めずらしく、お母さんが昼間に声をかけてきた。 
「Yちゃーん入るわよー」 
すぐにドアに駆け寄り、身体で押して抵抗するが、こちらは体力の無い引きこもり、 
すぐに力尽きて抑えられなくなり、ベットにもぐりこんだ。 
布団の外で足音が二つ聞こえる、お母さんと一緒に誰か入ってきたようだ。 
いきなり物凄い勢いで、布団を引き剥がされる。 
知らないおばさんが、謎の満面の笑みで顔を覗き込んできた。 
「あら、この子かい。なかなかかわいいねぇ」 
抵抗する間もなく腕を掴まれて起き上がらされて、ベットの横に立たされる。 
「じゃあ、行こうかねぇ」 
えっ?どういうことなの… 
「…そうだ、そのままじゃきついだろうから、はい、これ」 
ベースボールキャップを渡され、被る。 
さらに、不思議な呪文のような柄のスタジアムジャンパーを 
慣れた手つきでジャージの上から羽織らされると、 
手を握られたまま、部屋の外へと連れ出される。 
なんだろう凄く嫌なんだけど、このおばさんの手に握られていると抵抗できない。 
玄関でお母さんが「娘を頼みます」と、頭を深々下げて見送っていた。 

家の前につけられていた大きな黒塗りの、RV車とか言うのだろうか、 
とにかくそういう厳つい車の後部座席に座らされる。 
運転はおばさん自身がするらしい。「すぐつくからねぇ」とか暢気に言われる。 
…いわゆる引き篭もり矯正施設に送られるのだろうか。 
それとも、私も一応は女だ、風俗にでも売られたのだろうか。 
と、色々考えようとしたがすぐに疲れて止める。 
まぁ、どうにでもなればいい。



472 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 14:43:52 ID:dIgiHSiJ0 [4/26回(PC)]
30分ほど車が走ると、町外れに着いた。 
良く見ると雑木林の中に平屋の日本家屋が建っていて、 
林が切り開かれた門の前に車が止まり、降ろされる。 
おばさんとその門を潜ると、スウッと不思議な感覚が身体を通り抜けた。 
驚いたが、立ち止まる間もなくおばさんから手を引かれて 
開いていた玄関に連れ込まれた。 

玄関に入ると、白装束と白い顔を隠した頭巾を被った女性が 
私を一瞥してからおばさんに礼をして、二人を奥の間に案内してくれた。 

襖を開けると、甚平っぽいものを着込んだ背の高い男の人が 
あぐらをかいて座っていた。 
私を見て眼を丸くし、慌てて立ち上がり、おばさんと会話している。 
引き篭もりを見るのが初めてなのだろうか…。 
「こいつは凄いな。これだけのものを抱えんでいてよく… 
 …"器"にもならず…この子はとても強いよ」 
「あんたも似たようなもんだよ…。とにかく、宜しく頼むわよ」 
ブツブツと二人で話し込んだ後に、 
おばさんから男の人の反対側に座るように手招きで薦められる。 
「じゃあ、終わったら来るからね」 
と私に声をかけて、おばさんは部屋から出て行った。 
座布団に座っていると、男の人が真面目な顔で話しかけてきた。 
「えーと、これから起こることはちょっと面倒なんで 
 できればこのアイマスクをつけた上で、 
 目をつぶっていて欲しいんだけど、できるかぎり強くね。いいかな?」 
何だか怖かったので不信な眼を向けると、すぐに笑顔を作って 
「あ、大丈夫。触ったりとかはしないから。それとこの耳栓も着けといて」 
と言った。ほんとは優しい人なのだろうか。良く分からない。 
アイマスクと耳栓を渡され、とりあえずは素直に着ける。 
耳栓は良くできているものらしく、体内の音しか聞こえなくなった。 
言われた通りに、思い切り強く目を瞑る。