305 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 19:45:49 ID:lpNh7whZ0 [10/14回(PC)]
特に進展も無いまま、数ヶ月が経ち、 
梅雨に入って蒸し暑くなったころだろうか、その夜は夢を見ていた。 
内容は"町で旨いラーメン屋を見つけて喜ぶ俺"みたいな平和なものだった。 
ハッピーな気分で、黄金色に輝く超旨いラーメンを啜っていたら 
"グニュウウウウ"と空間を歪めて河童神が店に、というか夢に入り込んできた。 
乱入はいつものことなので「またおまえか」とか 
「ニヤニヤすんな、カエレ!!」とか文句を垂れていたら 
ラーメンが茶色い、言いたく無い何かに変わった挙句、 
河童神が入ってくるために空けた空間に、手を引っ張られて連れ込まれた。 
そのまま夢の場面が変わったようで、河童神は消え失せ 
いつのまにか俺は、Sちゃんと、どこかで見たことのある男の子とで食卓を囲んでいた。 

ナイフとフォークを持ったまま固まった彼女が、口だけを動かして俺に訴えかけてくる。 
「ねぇ助けてよ。この子は私の子じゃない、でも私とあなたとの子なの。 
 夫が死んでから夢に出てくるのよ。あなたと私がこの子を囲んで食事するの」 
いやそんなこと言われても、避妊は間違いなくしていたし、まったく身に覚えがございません。 
そう反論しようとしたら、さらに畳み掛けられる。 
「ずれてしまったの、何もかもが取り返しがつかないほどに離れてしまった…」 
わけが分からなくて絶句していると、 
また場面が変わる。 

どしゃぶりの雨の中、道の真ん中で女性が倒れていて、その側で女の子が泣いている。 
俺は倒れている女性の少し上に浮いていて、 
何もできずに、見つめ続けることしかできない。 
そこで唐突に夢が途切れ、目が覚めた。 
何かただ事ではない感じがしたので、師匠に電話をかけると、 
眠れなくて起きていたらしく、車ですぐにかけつけてくれた。 
夢で見たのは、市内の見覚えのある場所だったので 
車の中で師匠に、これまでのSちゃんとの経緯を話し終えたころには、 
たどり着くことが出来た。

 
306 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 19:47:10 ID:lpNh7whZ0 [11/14回(PC)]
そこには夢そのままの光景で、 
深夜の人気の無いアスファルトの上、ずぶ濡れになったSちゃんが倒れていた。 
夢と違うのは、さっき食卓に居た男の子が、 
Sちゃんの少し上を浮いているということぐらいだった。 

横殴りの雨が降り続け「おかぁぁぁぁあさぁぁぁぁぁんんん」女の子は泣き続ける、 
男の子は悲しそうな、無念そうな表情をして母親を見つめ続けている。 
たまらずに二人とも車から飛び出して駆け寄り 
俺が「救急車を呼びまし…」と師匠に声をかけようとした時だった 
師匠が念のため付けてきたらしい 
何枚かのお札シールを突き破り"アレ"が発現する。 
「イタダキマァァァァアアァアアァァアアスススススス!!!!!!!」 
黒い唇が叫び、前見た時よりより明らかに大きくなった黒い腕が 
いったん上に吹き上がってから、浮いている男の子のほうへと猛烈に迫る。 
あり得ない、河童神の時でさえ近距離でわずかに漏れる程度だったのに、 
驚いていると、男の子が俺のほうを向き小さく呟くのが見える 
「おとうさん…」そう言われた気がした。 

次の瞬間、なぜだか俺は全力で駆け出し、 
無謀にも"アレ"とその子の間に滑り込んでいた。 
「喰うな!!ダメだ!!!絶対にダメだ!!」 
"アレ"の黒い手が俺の身体に食い込み、 
溶け出した暗黒物質が全身に染み込んでくる。 
視界の隙間から、唖然とする師匠が見える、 
それにしても何で…まぁ、別にいいか… 
意識が途切れる寸前、"ありがとう"と誰かが耳元で囁いた。



307 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 19:49:07 ID:lpNh7whZ0 [12/14回(PC)]
師匠が携帯で連絡して、おかんと友達が駆けつけたのだが 
おかんは全身真っ黒な俺を見て、一瞬気を失いかけたらしい。 
(ただし、すぐに持ち直したようだ。馬鹿息子でサーセンwww) 
直ちにおかんに祓われないといけない師匠と、意識の無い俺に代わり、 
病院に付き添いで行ってくれたおかんの友達が、医師や娘から聞いた話によると、 
Sちゃんはたぶん、近くの深夜託児所から娘を連れ帰る途中で、脳梗塞を起こしたらしい。 
俺やSちゃんの若さでは滅多にならないのだが、彼女は身体を酷使しすぎていて、 
皺寄せがたまたま脳の血管に行ったようだ。ただ発見がとても早かったので、 
後遺症は残らないだろうし、リハビリも殆ど必要ないとのことだった。 
その後、霊体の男の子はどこかに消えたまま、誰も見ていないらしい。 

Sちゃんが搬送された病院に到着して、手術されている頃だ。 
仕事用RV車の中に張られた結界に横たわり、 
身体中の穴と言う穴から暗黒物質を吐き出している俺と、 
その隣で涙目で正座している師匠を、二刀流便所スリッパで同時に叩きまくりながら 
「M君から一通りは聞いたよ」と、完全防備したおかんは、マスク越しに言った。 
「たぶんSちゃんは、元々あんたの運命の一部だったんだろうねえ、 
勿論あんたも彼女の一部だった。 
 だけども、何かの強いキッカケで二人は離れてしまった」 
「その、生身じゃないほうの子は、もしかしたら本来生まれるべき 
 あんた達の子だったのかもよ。間違いで身体が手に入らず、魂だけになってしまったんだろう。 
 だとしたら霊体でも、立派なうちの一族だねぇ。 
 そりゃ"アレ"も機会があるのなら、喰いたいだろうさ」 
「あんたは、一族の守護や人間の繋がりもあるから、 
 孤独なSちゃんのほうを護っているのかもしれないねぇ」 
さすがに韓流ドラマの見すぎなんじゃ…ってか韓流ドラマですらそんな超展開ねぇよww 
とは暗黒物質に塞がれて、口が聞けないので言わなかった。 
決して怒られるのが怖かったわけではない。