302 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 19:41:35 ID:lpNh7whZ0 [7/14回(PC)]
 
"運命" 

Sちゃんは、小学生のときに病気でお父さんが亡くなっていた。 
そんなに美人ではなかったが元気が良く目立つタイプで 
お父さんが亡くなってからは、何事にも努力を惜しまないようになり 
元々の人懐っこく、裏表のない性格にもさらに磨きがかかり 
とても周りから好かれるようになっていた。 
俺らは中二まではクラスも同じで、仲も結構良かった。 
恋心に気付いたのはそのころ。マセた最近のガキにしては遅れた初恋だった。 
中三のときにクラスは分かれて、高校は別々に進学した。 
勉強を頑張っていた彼女は市内トップの進学校、 
適当な俺は偏差値そこそこの公立普通科高校。 
高校生活にも慣れ、バイトなんかにも手を染めて 
たぶん、このまま忘れて行くんだろうと思っていた矢先 
彼女から呼び出され、突然の告白を受けた。 

「ねぇ、付き合おっか」

 
303 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 19:42:36 ID:lpNh7whZ0 [8/14回(PC)]
もちろん二つ返事でオーケーした、ありえない奇跡にテンションあがりすぎて、 
何かに憑かれたと勘違いしたおかんに、便所スリッパで数発殴られたのは良い思い出だ。 
何でいきなり告られたのかは謎だったが、とにかく嬉しかった。 
俺らは放課後や休日に沢山二人で遊びに行った。 
お互い青春を使い尽くすように、いっぱい笑って泣いて歌って 
まぁ、やることもそれなりにやった。リア充でサーセンwwwww 
心霊関係のことは、彼女は関わりが無い方だったのでできるだけ黙っておいた。 
おかんのことも"福祉系の自営"とだけ言っておいた。おかんも合わせてくれた。 
実は当時から師匠とも交友があったのだが、その時期はあまり縁が無かった。 
たまに会ったときは「盛りのついたガキは臭くてたまらんね」と、全力で嫌味を言われたが。 
とにかく、俺は高校三年間とても幸せだった、彼女も幸せそうだった。 

ただ高校生のガキなりに勘付いてもいた。 
彼女が父親の死以上の、何か大きなものを抱えていたことに。 
長く付き合えば合うほど彼女に、僅かだが、確かな齟齬があるのに気付く。 
それは発達障害や、人間としての一般的な個体差というより、 
決定的に元々"住む世界が違う"といった感じだった。 
お互い無事に高校を卒業して、それぞれの進路についたあとは、 
もう会うことも無かった。 
今思い返してみても、あれだけ燃え上がっていたわりに、 
不思議と未練もなく縁が切れたと思う。



304 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 19:43:39 ID:lpNh7whZ0 [9/14回(PC)]
ある日の夕方、繁華街を師匠と歩いていたら、 
何年かぶりにSちゃんとすれ違った。 
随分と変わっていたが、一目で彼女だと分かった。 
髪型は濃い茶髪のロングで、当時よりだいぶ痩せていて 
全身黒で固め、小さな子供を二人連れて歩いていた。 
両方とも三~四歳で、一人はかわいらしい生身の女の子、 
もう一人はかわいらしい、生身じゃない男の子。 
「今の見たか?すげぇな」 
「お札シール貼ってなかったら、危なかったな。("アレ"が)確実に出てたぞ」 
師匠はそう言っていたが、俺は悪い感じをまったく受けなかった。 
そんなことより、Sちゃん自身の不幸そうな様子が気にかかった。 

その暫らく後に、中学の同級生と飲む機会があり 
それとなく彼女のことを尋ねてみたら、知らない間にだいぶ苦労していたらしい。 
高校卒業後、家計を助けるために大学には進まず、 
地方銀行員として就職して(という所までは知っていたが) 
職場で良い人に巡り会って妊娠、寿退社するものの、すぐに夫は交通事故死、 
今は再就職し、シングルマザーとして仕事と子育てに奮闘する日々だという。 
「とは、言うんだけどね、あの子何でだか、 
 だんなさんが亡くなってからは、友達付き合いも殆ど断ってしまっていて、 
 今はどうしているのか、正確なところは誰も知らないのよ」 
という同級生の言葉が、少し気にかかった。