18 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 23:50:40 ID:5wEx2dIH0 [1/5回(PC)]

登場人物 
A→俺。一応主役。 
Mさん→俺の師匠。"アレ"に憑かれている。俺の心の声では師匠。会話では(恥ずぃので)Mさんと呼んでいる 
おかん→俺のおかん。つよい。便所スリッパで悪霊を祓う。 
"アレ"→師匠に憑いてる怖い何か 

自己責任で読んでください。一応警告したので始めます。 
"球体" 

わが町内の西端にある踏切には、俗に言う化け物が居る。 
直径1メートル半くらいの人間の手足を纏めてできている濃い紫の球体状のもので、 
踏切から2メートルほど上をフワフワと浮いている。 
人を引き込んだりと害は無いと思うのだが、時々その球体が大きくなることがある。 
おかんも「あの球は何か分からん」と言って、いつも不思議がっている。 

師匠は基本的にこの踏切を通りたがらない。 
近づくと否応無しに例の"アレ"が出てくるからだ。 
一度見たことがあるが、準備動作なしでいきなり黒い腕を長く伸ばし、 
球体の左半分をもぎ取ると、それをモシャモシャと食べていた。 
「これ以上こいつに成長されてもたまらんからなぁ」とは師匠の言葉である。 
半月のようにもがれたそれは、すぐに球状に再構成されて 
一回り小さくなったが、またフワフワと浮んでいた。 

話は変わるが、轢死体は時々身体のパーツがどんなに捜しても足りないことがあるらしい。 
それは大体、手や足などのもげやすく飛びやすい、細く軽い部分だが 
時々、首から上が無いものがある。 
どんなに周囲を捜しても頭が丸ごと無いのである。

 
20 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 23:52:44 ID:5wEx2dIH0 [2/5回(PC)]
その日はやることもないので、ダラダラと夕方のニュースを見ていたら、 
午後六時頃にわが町の駅で、OLが列車に飛び込んだというニュースが流れた。 
名前を見てビックリした、古くからの知り合いだったからである。 
彼女はIちゃんと言って、俺の2~3才上、 
首都圏の有名大学をストレートで卒業してから 
家の事情で地元に帰ってきて、この町の近隣都市の商社に勤めていた。 
うちの家とは遠縁であり、お姉さんということて、俺は子供の頃遊んでもらった思い出も多い。 
霊的な素質も高かったらしく、生前はおかんとも良く気があっていた。 
かなりの長身美人で有能で、性格は爽やかで気風が良いパーフェクトリア充。 
どう考えても自殺するような人ではない。 

葬式では、遺体を見せてもらえなかった。 
何でも「損傷が激しいから」ということだったが、 
Iちゃんの親戚の一人がおかんに語ったところによると 
「首から上が丸ごと無かった」から見せられなかったらしいのだ。 
それにおかんによると、Iちゃんの魂がどこにも見つからないらしい。 
通常死者の魂は実家や葬式場の周辺を漂っているのだが、どちらにもまったく気配すらないらしい。 

心配したおかんが、葬式が終わった後に友達の"捜し屋"さんに占ってもらったところ、 
Iちゃんの魂はどうやら件の"球体"の中に居るようなのだ。 
これには捜し屋さんも首を傾げていた。 
うちの親族は、基本的にとても強い守護霊に守られている。 
俺が、怨念の塊のような霊気の師匠と普通に付き合えるのもそのおかげだ。 
もちろん遠縁のIちゃんにも、仏や神とまではいかないがそれに近いくらいの守護がついている。 
肉体を失ったとは言え、魂がああいうものに取り込まれることはまず無い。 
とにかくこれはいかん、ということで俺が様子見をしにいくことになった。 
仕事の都合で、しばらく家から離れられないおかんから 
「いいかい。決して無理をしちゃだめだよ。もし面倒なことだったら、私がやるからね」 
と、いつもより強い口調で言われた。 
どっから聞きつけたのかは知らないが、師匠も「面白そうだ」と言ってついてきた。 
師匠によると10メートル以内に近づかなければ、"アレ"が自動発動することはないらしい。 
なにぶんいい加減な人なので、できるだけ遠ざけておこうと思った。



21 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 23:54:46 ID:5wEx2dIH0 [3/5回(PC)]
踏切に到着した。 
時間は一般人に迷惑をかけないように、午前2時にしたのだが 
人も電車すら滅多に通らないこの時間でも、"球体"は相も変わらずフワフワと浮んでいた。 
以前ほどではないが、"アレ"に食べられたときより大きさは回復していた。 
師匠は近づいたらやっぱり"アレ"の自動発動が怖くなったのか 
俺が言うまでも無く15メートル以上は離れたうえに、電信柱の影から見守っていた。 
俺は"球体"と同時に師匠の様子も見られるように、線路を渡って師匠の対角線上に立ってから、 
遮断機の上に浮んでいるそれに話しかけた。 

「Iちゃん居るんだろ。出てこいよ」 

不意に周囲の宵闇が一段と落ちていき、 
人の手足の肉で出来た球体からズブズブと人間の頭が出てくる。Iちゃんだ。 
遠くで見ている師匠の首が、いきなりガクッと下に落ちた。 
"しまった。まだ距離が足りなかったか"と思ったのもつかの間 
そのまま吸い寄せられるよう、踏み切りの近くまで足早に歩いてきた。 
当然のように師匠の肩から黒い腕が出現する、さらに空中に上下唇のセットも出てきた。 
腕は獲物を下見するようにウネウネと気持ち悪く動き 
唇の方はブツブツと何かを呟いている。 
「マ…マエヨリモ…ウ…ウ…マソウデスネ…」 
球体に頭がくっ付いた形になったIちゃんが口を開く。 
「A君久しぶり、私は葬式には居なかったから…最後のお礼を言えなくてごめんね」 
その口調は以前と同じ穏やかなものだった。俺は精一杯平然を取り繕って会話する。 
「いやいや、いいよーIちゃん。それよりどうしたのよ。取り込まれた?除霊しようか(おかんが)」 
「カ…オ…カオガ…タ…ベタイ」 
「ダメよー、私はここに呼ばれたんだから、今はまだダメ」 
長い髪を振り乱し、両目が別々の方向に向いたまま、生前と同じ爽やかな笑顔を向けられた。 
「ふ…ふーん。ならいいけど、この町に害を為すことがあったら、(おかんが)除霊するからね」 
「それは怖いなー、気をつけるわー」 
なんだこの爽やかな悪霊(?)と、思った時だった。