956 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2010/07/02(金) 22:21:08 ID:oyMR37UJ0 [1/2回(PC)]
知り合いの話。 

子供の頃、学校の裏山で一人遊んでいると、鶯の声が聞こえてきた。 
恐らくは巣立ちしたばかりなのだろう。 
まだ囀りが下手で、最後まで上手く通して鳴けていない。 

「ふむ、まだまだ下手っぴいだな」 

生意気にもそんなことを考えていると、一際大きな鳴き声が林に響き渡った。 
比べものにならないほどの見事な鶯の囀りだ。 

下手な鶯が鳴いた直後には必ず、上手い鶯が続けて鳴いている。 
まるで手本を見せて、指導をしているかのようだ。 
やがて段々と、下手な方の鳴き方が上達して行くのがわかったのだという。 

「へぇ鶯も勉強とか練習とかするんだ。学校みたい」 

囀りの先生は、どうやら近くで鳴いているらしい。 
どんな鶯だろうと辺りを探してみた。 

声のする方を探していると、まったく予想外の奇妙なモノを見つけてしまう。 

少し離れた木立の中、そこの枝に小さな老爺が腰掛けていた。 
昔話にでも出てきそうな、真っ赤な頭巾と落ち着いた色合いの着物姿。 
シワシワの顔は気難しそうだが、どことなく優しそうでもある。 

 
957 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2010/07/02(金) 22:22:04 ID:oyMR37UJ0 [2/2回(PC)]
(続き) 
ただ、その身体は非常に小さかった。 
見立てでは、彼のランドセルよりも小さく思える。 

「・・・小人?」 

ポカンとして見ている内、また鶯が鳴いた。下手な方だ。 
すると老人は、一つ咳払いをするような動作をしてから、大声を張り上げた。 
その喉から迸ったのは間違いなく、見事な鶯の囀りだ。 

ますますポカンとして、長いこと老人と鶯の鳴き合いを眺めていたそうだ。 
そのうちうっかりと身を乗り出し、小枝を踏み折ってしまう。 
大きな音ではなかったが、鶯は鳴くのを止めた。 
気付けば老爺も、何処かへ姿を消していた。 

家に帰ってから祖父にこの話をしてみた。 

「この谷に昔からいるという、鶯の師匠ってヤツだろう。 
 親とはぐれた小鳥に、鳴き方を教えてやってるんだとさ。 
 鶯以外の鳥も面倒を見ているらしいが、やはり里じゃ鶯が一番人気だからな。 
 それでいつの間にか、鶯の師匠って呼ばれるようになったって話だ。 
 滅多に見られるモンじゃないぞ。 
 お前、運が良かったな」 

冬が明けて小鳥の声が聞こえる時期になると、彼はこの体験を思い出すという。