53 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 19:17:29 ID:IGrGF9If0 [1/3回(PC)]
友人の話。 

夏山を仲間と二人で縦走していた時のことだ。 
その日は河原にテントを張り、釣った魚を夕飯にしていた。 
腹も満たされてそろそろ寝ようかという頃合、人の声がした。 

「入るぞ」 

渋い男の声が、テントのすぐ外から掛けられた。 
思わず仲間と顔を見合わせる。咄嗟に声が出ない。 

「入るぞ」 

もう一度声は呼ばわった。 

仲間は怖い顔で、指を口の前に立てて“声を出すな”のジェスチャーをした。 
固唾を呑んでその指示に従う。 
うっかり返事をすると、声の主がテントに押し入ってくるような、そんな気が 
したから。 
後で確認したところ、仲間もまったく同じことを考えていたそうだ。 

その後も間隔をおいて「入るぞ」の声は聞こえ続けた。 
何度目の問い掛けだったろう。 
身動きもせずに固まった二人の耳に、先までと違う文言が届いた。 

「招かれないんじゃ仕方がない。残念だが出直そう」 

それきり声は二度と聞こえなかった。

 
54 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 19:18:27 ID:IGrGF9If0 [2/3回(PC)]
(続き) 
安堵の溜息を吐きはしたが、言葉を口に出すのが恐ろしかった。 

どこかでアレが聞いているような気がして。 
声を出して会話すると、またアレが声を掛けてくるような気がして。 
闇の中から。 

取り敢えず筆談で意思疎通し、交代で番をしながら寝ることにした。 
無事に夜が明けてから、やっと声が出せたのだそうだ。 
「何だったんだ、アレ!?」 

答えは見つからず、その日のうちに強行軍で山を下りたのだという。