62 : 6/11[] 投稿日:2009/10/14(水) 00:20:23 ID:RQVGJyVv0 [6/11回(PC)]
次の日の朝、といっても私は昼近くまで寝ていたのですが、 
母親から「昨日の音、聞いた?」と聞かれました。 
洗いざらいを説明するのが面倒だったので適当に答え、 
また部屋に戻ると双眼鏡を覗きます。鐘撞き小屋のところに 
何人かの人が集まっている様子だったので、何かおもしろいことはないかと 
スーパーカブに乗って現場に向かいました。 

境内には白い「わ」ナンバーのバンが乗り付けられていました。 
そして鐘撞き小屋の一段高くなったところの下に鐘が落ちていました。 
警察の検証は終わったようで、犯人は車を捨てていなくなったとのことです。 
盗られたものもなく、近隣の警察と寺、自治体に連絡しておく、 
とのことでした。その一方で僧侶の代わりに日ごろの運営をしている 
村の消防団の人たちが鐘をどうするか、という話をしていました。 


63 : 7/11[] 投稿日:2009/10/14(水) 00:23:22 ID:RQVGJyVv0 [7/11回(PC)]

「もう1回かけるか」 
「もうこのままにしておいたらどうか」 

その話し合いを遠巻きに見ている人々の中に、A君のおばあさんがいました。 
A君は小学生の頃に一家で村から引越していったのですが 
おばあさんだけが残っていました。自分は既にA君と音信不通でしたが、 
おばあさんは孫と同い年の自分に良くしてくれるので 
この年になるまでときどき家に遊びにいくという関係が続いています。 

俺「お久しぶりです。」 
婆「俺ちゃんか。泥棒じゃないかって。嫌な世の中だね。」 
俺「鐘なんて売れるんですかね。」 
婆「戦後は鉄くず屋が来て自転車でも買っていったもんだけど。」 
俺「なんでも鑑定団なんかに出そうとしたのかな。」 
婆「ごぜさんの鐘だなんてお金もらっても欲しくないわ。」 
俺「ごぜさんの鐘?」 



64 : 8/11[] 投稿日:2009/10/14(水) 00:24:17 ID:RQVGJyVv0 [8/11回(PC)]
おばあさんから教えてもらったことによると、 
このあたり一帯では昔、盲目の子供が生まれると 
男も女もごぜさんにもらわれていったとか。 
男はまた別のグループに引き渡され、女はごぜさんとして 
一生を送ったそうです。この鐘は遠い昔には普通の鐘として 
使われていたものが、いつしかごぜさんを呼ぶ合図の鐘として 
用いられるようになったということでした。 

その日の夕食、両親との会話の中でごぜさんの鐘の話になりました。 
父親は役場勤務のため嫌でも耳に入ったようです。 
私が「ごぜさんの鐘」というと両親とも「え」という顔になりました。 

父「ごぜさんの鐘?」 
俺「そう。ごぜさんの」 
母「誰から聞いたの?」 
俺「A婆から」 
父「嘘だ~。本当にあったんだ。あれが?ぐるぐる巻きの。」 
母「ねぇ。小さい頃は聞かされたもんだけど。」



65 : 9/11[] 投稿日:2009/10/14(水) 00:25:29 ID:RQVGJyVv0 [9/11回(PC)]
両親の話によると、ごぜさんの鐘とは確かにごぜさんを呼ぶもの。 
ただし鐘が鳴るのは盲目の子供が生まれた場合に限らない。 
寒村では子供を育てるのに厳しい年もあり、口減らしをしなくては 
ならないこともあったとか。育てられない子供が出てしまった家では 
両親が子供の目を潰し鐘を撞いたそうだ。ごぜさんの旅は辛くとも、 
娯楽の少ない時代、行く先々では大切にされたそうだ。 
そのうち、子供の目を潰すことができなかった両親が 
鐘撞き小屋に子供を置き、ごぜさんの鐘をついて連れて行ってもらうのを 
待つようになった。当然ながらほとんどの子供は凍死する。 
住職は数え切れないほど多くの子供が冷たくなっているのを見つけ、 
その服を鐘撞き小屋の柱に巻いて弔ってやった。



68 : 10/11[] 投稿日:2009/10/14(水) 00:29:29 ID:RQVGJyVv0 [10/11回(PC)]
そのうち、ごぜさんの鐘の周りで子供の霊を見たとか、 
遭難したごぜさんの列が歩いているのが見えるとかいう噂が広まり、 
風の強い日には両手で耳を塞いでもごぜさんの鐘の音が聞こえると言って 
発狂するものまで出た。これでは、ということで鐘撞き小屋に 
残されていた子供の服と荒縄で鐘をぐるぐる巻きにして 
二度と鐘の音が鳴らないようにしたんだそうだ。 

両親とも、子供の頃からごぜさんに連れていってもらうよ!という意味の 
脅し(悪いことをした子供への警鐘)として 
「ごぜさんの鐘鳴らすよ!」という言葉と上のような背景は 
聞いていたものの、まさかあの鐘が本当にそうだとは思っていなかったそうだ。 



69 : 11/11[] 投稿日:2009/10/14(水) 00:30:31 ID:RQVGJyVv0 [11/11回(PC)]
この一軒があってからもずいぶん経ちますが、 
改めて思うことがあります。 

日本から昔のままのごぜさんが廃れて久しい。 
歌や風習を伝える人はいても、本物のごぜさんはもういない。 
日本のどこを探しても、ごぜさんが歩く列は見られない。 
しかしあの夜、ごぜさんの鐘を盗もうとした連中は鐘を鳴らしてしまった。 
果たしてごぜさんは来たのだろうか。どこから? 
来たとしたら、連中はどこかへ連れて行かれたのだろうか。 
警察の追跡を恐れて逃げ出しただけなのか。それとも。