681 : 4/6[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 12:48:40 ID:w+qhZ557O [4/6回(携帯)]
疑問を提起した私をまぁまぁ話は最後までさ、と諫めつつ彼女は続ける。
「全部で三件あったらしいんだよね、猫殺し。一件は事故みたいだから実際は二件なのかな?猫好きな私としては絶対に許せないね、首を斬って殺すなんてさ」
首を斬られた猫を想像してしまって気持ち悪くなる。
「それからなんだよ『美術室から猫の声が聞こえる』のは。ショーコ、これがどういう事かわかる?」
「いやいやいや、待って、待ってよ」
すんでのところで吐き気を飲み込んだ私はサチをまくし立てようとした。
「じゃあ黒い人間はどうなのか、って言いたいんだよね?ホント、猫の幽霊ならまだしも下らないモノだよ」
顎で指し示した先には美術室のドアがあった。
「もう一度聞くよ」
怖いものは見たくなるのが人間というものだろう。
嫌な予感と好奇心が入り混じった不思議な気分のまま、ドアの窓に顔を近づける。
「なんで怪談は一つになったのかな?」
嫌な汗が額をつたう。
思わず目を閉じる。
目を開ければすぐそこに黒い影が蠢いているような気がして開けられなかった。
瞬間、猫の鳴き声が聞こえた気がした。
私は情けない事にヒッと後ずさった拍子に転んでしまった。
682 : 5/6[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 12:50:14 ID:w+qhZ557O [5/6回(携帯)]
「 」
サチは何かを言うと美術室に入ってしまった。
軽くパニック状態に陥っていた私も置き去りにされたくない一心でサチに続く。
入って一番始めに気付いたのは一人の女子がこちらを振り向いた事だった。
私から見るとモロに逆光だったが、細身でシルエットからそう判断した。
ほっと胸をなで下ろして近づこうとした矢先「なんで」と声が響く。
準備室から出てきた声の主は驚愕していた。
「一匹しか居ないはずなのに」
気付いてもう一度黒い少女の方を見るが、表情を伺うことは出来ない。
と、少女が私の方に歩きだした。
何をすることも出来ない私がしたことと言えば、走り寄るサチの方を向いて泣きそうな顔で口をパクつかせること位だ。
いよいよ詰まる距離に限界を感じた私の体は、少女の体がぶつかったと同時にサチによって引き倒された。
私の記憶はドアから出ていく影をサチと見送った所で途切れている。
数日後、朝礼で美術の教師が交通事故にあったと校長から話があった。
事故が起こったのはどうやら私達が影に出会った次の日らしい。
その事を知ったときは、理由はどうあれ同時に後ろめたい気分になった。
きっかけに過ぎなかったとしても、無視する事は出来ない。
683 : 6/6[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 12:51:15 ID:w+qhZ557O [6/6回(携帯)]
結局の所、あの影は不登校の少女の生霊だったらしい。
美術教師と女生徒の関係は以前から噂になっていたそうだ。
「大方、痴話喧嘩を見られて誤魔化そうとして噂を広めたんじゃないかな。それが現実に侵攻してきてしまった。そりゃ学校に来たくなくなるよ。言葉の力は怖ろしいよ、まったく」
私は殆どサチとしか話さなかったし、彼女は彼女で余り他人と話すような性格ではないので情報が入ってこなかったのだ。
「なんで美術室だったんだろう?」
帰り道、兼ねてからの疑問を尋ねてみた。
生霊だったなら当人の元に出れば良い話で、わざわざ学校に出る理由が私には解らなかったのだ。
私の質問を聞いてサチは一瞬呆気にとられた後、吹き出した。
「相変わらずショーコは面白いね」
「なにがよ」
バカにされたと思い膨れているとサチは優しく私に問いかける。
「先生の家、場所解る?」
言われて合点がいった。
「家の場所が解らなかったとか?」
それが一つ、と微笑んでサチは続ける。
「それか、私達の知らない恨みがあったのかもしれない」
なんてね・とサチは笑ったが、私は自分の背後に顔のない影が立っている気がした。
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