678 : 1/6[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 12:44:36 ID:w+qhZ557O [1/6回(携帯)]
週に一度は知らない所から電話がかかってきて、家ではラップ現象が生活音のように鳴り響く。 
これはそんな友人と私の体験の覚え書きだ。 

「それは知らないよ」 
親友であり幼なじみであるサチが妙な事を言い始めたのは小学5年の時だったと記憶している。 
そんな彼女と今も同じ大学に通っているのだが、今回書かせていただくのは中学時代の話だ。 
サチと私が入学した学校は都内だったこともあり、所謂心霊スポットや怪談話には無縁の生活を送っていた。 
そんな中に初めて囁かれたのが“美術室の怪談”だ。 
内容は『放課後、美術室の前を通ると猫の鳴き声がする。気になって覗いてみると、四つん這いの黒い人間が机と机の間を駆け回っている』と言う想像すると気持ち悪いものだった。 
そんな噂が私の耳に入ってくるのにさほど時間はかからなかった。 
そして彼女に知っているか聞いてみると冒頭の台詞が帰ってきた次第である。 
「まさかとは思うけど気になるの?」 
私を駄目な娘を見るような視線を送ると、彼女は溜息混じりにそう前置きした。 
「本当ショーコはそう言うの好きだよね」 
ショーコとは私の事である。 
「良いじゃん、みんな見てるのに私見たことないんだもん」 

 
679 : 2/6[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 12:46:08 ID:w+qhZ557O [2/6回(携帯)]
零感であるところの私がムスッとしていると、サチはまた溜息を吐いて言った。 
「なんていうか、隣の芝はすべからく青く見えるモノだよ」 

時を同じくして隣のクラスの生徒が不登校になった。 
今となっては、卒業アルバムを見てやっと名前を思い出す程度の接点しかないような子だ。 
そう言えば最近年上の相手と結婚したと風の噂で聞いた気がする。 
話を戻そう。 
学校での怪談、それに続いての不登校とくれば多感な少年少女が食いつかない訳がない。 
例に漏れず私もその中の一人で、普段全然話すことのないクラスメートと不思議と打ち解けていた。 
「生霊ってセンが濃厚なんだってさ」 
クラスで主流の説を帰り道に話しているとサチは驚くほど真面目な顔でなるほど、と頷いた。 
「でも生霊って本人の所に現れるものだと思ってたよ」 
「って言うと?」 
私が頭から疑問符を出している私へ彼女は単語で応えた。 
「源氏物語」 
「えっ?それがどうしたの?」 
疑問符が増える一方の私にさらにたたみかける。 
「六条御息所」 
「えっ?えっ?何?」 
解らないことだらけの私はいよいよ泣きそうになった訳なのだが、最後の単語でハッとした。 
「葵の上」 
「あ…そっか。」


 
 680 : 3/6[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 12:47:50 ID:w+qhZ557O [3/6回(携帯)]
やっと答えにたどり着いた私に優しく微笑みかけるサチ。 
「それに、ホントにそうだったとして放課後見れれば良いけどね」 
「そっかー」 
「じゃあ着替えたらウチ集合で」 
この雲行きは不穏である。確かに、私は心霊現象が全般的に好きだ。 
「見たいのはショーコでしょ?なるべく急いで来てね」 
だが何を隠そう恐がりだったのだ。 
「ぶえええええ!?」 
私が夕方の学校に異常な恐怖感を抱えているのは何が原因かと問われれば、彼女と答えるに決まっている。 

夕方。 
L字型をしている私の学校の短い方の三階に件の美術室はある。 
「ねぇ、サチ。入れないんじゃない?」 
狙いを定めたのかはたまたそう言う運命だったのか、奇しくもその日は午前授業だった。 
「大丈夫、事務の人に言えば入れてくれるよ」 
そんな他愛もない会話をしている内に学校に到着してしまった。 
事務員と二、三言交わすとサチは親指で玄関を指し示す。 
どうやら許可が降りてしまったようだ。 
「元々怪談は二つしかなかったらしいんだよね」 
上履きに履き替えたところでサチはポツリと言った。 
「お父さんに聞いた話なんだけど、美術室で猫が殺される事件があったんだって」 
「それで猫の声が聞こえるって?」