533 : KEN ◆FjOpeTE2Ts [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 22:05:11 ID:lTJTdL2P0 [8/11回(PC)]
「KEN、いいよ無視して。行くよ」 

幸村さんはそう言うと、私の手を引いて歩き出した。 
そしてとめてあった車に乗り込むと、エンジンをつけて笑った。 

「気にすることないよ。あの人、誰にでもあんなこと言ってるから」 

やはり平然としている。車に乗ったことで落ち着きを取り戻した私は、後ろを見ながら言った。 

「それは知ってますけど…でも」 

独り言おばさんはもういなかった。 

「…なんであの人、あんなこと言うんですかね?」 

「……俺さ、あのおばさんの家に遊びに行ったことあるんだ。 
小さい頃に一回と…中学の時一回。ほら、俺あのおばさんの息子と同い年じゃん?」 

幸村さんは、また何か面白いことを話すとでも言いたげな笑みを見せた。 


「…だからわかるんだけど、小さい頃に遊びな行った時は、あのおばさん普通の人だったんだよ。 

遊びにきた俺に、いらっしゃいって言って手作りクッキーとかくれてさ」 

「え」 

驚く私。幸村さんは続けた。 

 
534 : KEN ◆FjOpeTE2Ts [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 22:06:01 ID:lTJTdL2P0 [9/11回(PC)]

「でも、中学のとき行った時は、もうダメだった。 
あの人、家のお隣さんは殺人鬼で、向かいの家はスパイだと思ってるんだよ。 

だからずっと何かに怯えててさぁ~、カーテンもピッタリしめてんの。 

息子いわく、おかしくなったのは父親が死んでしばらくしてかららしい。 
医者が言うには、旦那が死んだショックで精神的にまいっちゃったんだって。 

でも、ある日親戚の紹介でユタに見せる機会があって、その時はこう言われたらしい」 


幸村さんは、一旦切ってからコンビニで買ったコーラを飲む。幸村さんはコーラが好きだ。 

「…あなたのお母さんは、ユタの運命に背いた為に天罰を受けました 


ってね。 

息子は最初、意味がわからなかったらしいけど、後々調べて、ユタには生まれつき運命が決まっていることと、 
身内の死がきっかけでユタの力が目覚めることを知ったらしい。 
背いたとき、天罰が下って狂ってしまうんだっていうことも」 


車の中はやけに静かだった。幸村さんのコーラを飲む喉の音だけが響く。 



535 : KEN ◆FjOpeTE2Ts [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 22:07:19 ID:lTJTdL2P0 [10/11回(PC)]

私は、ユタの運命の重さに鳥肌がたった。 

「……その話しを俺にしたときのあいつ、すごい切なかったなぁ」 

あいつとは、独り言おばさんの息子さんのことだろう。 

「もうお母さん手作りのクッキーじゃなくて、市販のクッキーを食べながら…… 

必死で苦笑いしてたわ」 

幸村さんはそのあと、独り言おばさんの話をやめた。 
ドラゴンボールの話をしだして、車内の雰囲気はわずかに明るくなった。 


でも、私は心の中でずっと考えていた。 

独り言おばさんには、何が見えてるんだろう。