518 : KEN ◆FjOpeTE2Ts [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 12:37:31 ID:lTJTdL2P0 [1/11回(PC)]
私が今日、幸村さんに聞いた話。
幸村さんっていうのは私の彼氏なんだけど、まだ幸村さんと付き合ったばかりの頃、
幸村さんは私に「いつか俺の体験した面白い話を聞かせてあげるよ」と言っていた。
何故幸村さんがそんなことを言ったのかというと、学校の帰り道に心霊体験をしたとき、妙に落ち着いた彼を見て私が
「幸村さんって幽霊とか信じてなさそうですよね」
と言ったからだった。幸村さんは私のその言葉に、少しだけ笑いながら「いつか話すよ」と言ったのだ。
そして、今日がその「いつか」だった。
幸村さんの家から私の家まで車で移動している時、私と幸村さんはずっと無言でいた。
幸村さんの家から私の家までは車でも1時間以上かかって、今日は特に雨も降っていたのでもっと時間がかかっていた。
幸村さんはよく、移動中の退屈しのぎに「KEN、何か話を聞かせて」と言ってくる。
私は割といろんな雑学や小ネタを持っているので、彼はそれを求めてくるのだ。
でも今日はすごく眠たいらしく、私の声を聞いていたら寝てしまいそうだという理由で、私に話を求めてこなかった。
長い沈黙の中、雨の音だけが響く。
「そういえば幸村さん。去年あたりに、私に面白い話をしてあげるって言ってましたよね?」
私がそう切り出すと、幸村さんは眠たそうな顔で「そうだっけ?」と言った。
「言いましたよ。ほら、私が幸村さんは幽霊とか信じてなさそうって言った時!」
「………んー…言ったような言ってないような…」
幸村さんは首を傾げたまま、欠伸をする。私は少しムキになって「言いましたったら!」と幸村さんの頬を叩いた。
すると幸村さんは、目が覚めたのか、何かを思い出したように目を見開いて「あぁ、」と言った。
520 : KEN ◆FjOpeTE2Ts [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 12:38:23 ID:lTJTdL2P0 [2/11回(PC)]
「もしかして、俺の叔父さんの話しかな?」
「叔父さんの?」
「俺が中学の時、叔父さんが亡くなったんだ」
「…叔父さんが」
「うん。大晦日だったなぁ…俺母さんと一緒に年末の買い出しに行っててさ。ほら、お歳暮とかの。
で、買い物終わって家についたとき、俺は荷物おろし担当だったんだよ。
だからお歳暮おろして、次に一升瓶のお酒2本おろそうとしたんだけど……」
幸村さんは、信号にさしかかったため、車のライトを切った。
彼は、信号のたびに車のライトを消す習慣がついている。
「おろそうとしたんだけど……?」
私がくり返したとき、信号が青に変わった。幸村さんはライトを再びつける。
「うん。その一升瓶が、破裂したんだ。2本ともね」
「破裂!?」
「そう。バーン!って、いきなりね。俺ビックリしてさぁ…俺今何もしてねーぞ!?ってね。
だけど先に家に入ってた母さんはそれ見てないからすげー怒るし、
破裂したんだって言っても信じてくれないしで…俺拗ねてさぁ」
幸村さんは思い出しておかしくなったのか、クスりと笑った。
「だから俺、その年の年越しは拗ねたまま寝ちゃったんだ。
カウントダウンもしてなくて、目覚めたのは早朝の5時で、もう年は明けてた…」
522 : KEN ◆FjOpeTE2Ts [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 12:39:58 ID:lTJTdL2P0 [3/11回(PC)]
「寂しい大晦日ですね」。
「そうそう。でもそのときの俺には、寂しいと気づく暇も
HAPPY NEW YEARを言う暇もなかった」
幸村さんは、笑うのをやめて言った。
「早朝5時に、俺を起こした母さんが言ったんだ。今から叔父さんの家に行くから準備しろ!って」
まさか…という言葉を、私はのんだ。もしかしたらという考えは浮かんだが、それは言わずに幸村さんの言葉を待つ。
「新年の挨拶にはまだ早いだろーって布団に抱きついたままの俺に、母さんはまた深刻そうな顔で言った。
『叔父さんが昨日、海に落ちた』ってね。それだけで、もうわかるでしょ?」
幸村さんは、不意に私を見て言った。私は、予想してた展開にコクンと頷いた。
すると彼は、私の頭をポンポンと撫でてから続けた。
「叔父さんは漁師をしててね、その年最後の漁に出ていたらしい。
夜からかよ!って感じだけど、まぁ、独り身だったから。
で、一緒に船を出してた漁師仲間が言うには、大晦日だし年が明ける前に引き上げようっていうときに
、叔父さんの漁網がその人の船に絡まってしまったらしい。
暗闇じゃほどけねーよ!ってその人は言ったみたいなんだけど、
叔父さんは聞かずに船から身を乗り出して網に手をかけたらしくて…それでボチャン。
見てたその人は慌てて海中を見たんだけど、叔父さんは浮いてこなかったみたいで。
迷ったあげく、いったん港に引き返したらしい」
幸村さんがここまで話したとき、いつの間にか車は私の家についていた。
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