126 : 最終退室者(5/6)[sage] 投稿日:2009/06/21(日) 02:58:03 ID:Ji+DSlua0 [5/7回(PC)]

その数秒後、何かを絞ったような「キシキシキシ」という軋み音が聞こえたかと思うと、 


「うぐっ、ぐぅ…、うぅぅぅ…。」


という、くぐもった苦しげな声が


『隣の個室の中から』


聞こえてきたのだ! 
それと同時に、個室の壁をめちゃくちゃに暴れて蹴飛ばすような、 


「ドカン! ドカン! ドカン!」


という大音量が立て続けに鳴り始めた。 
突然の出来事に死ぬほど怯えながらも、その大音量を合図に手探りで鍵を開け、 


「うわぁ~!」


と思わず叫びながらトイレの個室を飛び出した。 
しかし完全な闇で扉を開けた後も何も見えない。 

自分がどちらを向いているのか、出口がどちらにあるのかもわからない。 

慌てて携帯電話のボタンを適当に押し、 
しばらく待ってから淡い光を前方に向ける。 
隣の扉はやはり閉まったままだ。誰の姿も見えない。しかし、


「ドカン! ドカン! ドカン!」


という恐ろしい音が鳴り響いている。 

携帯を握りしめたまま、うっすらと見える道を必死に走り、 
転ばないように最小限の注意を払いながら非常階段を目指す。 

ようやく鉄の扉に辿りついてドアのレバーを押し下げるが、扉が


「ガツン! ガツン!」


と何かに引っかかって、押しても引いても全く開かない。 


「うわぁ、ドアが開かない! 開かないぃぃぃぃ! 誰か開けてくれ~!」


と叫んだが、ふと見ると「-」のような形のドアロックを90度回して解錠しながら、 
レバーを下げなければ開けられないことを思い出し、 
転げ出るように非常階段へと飛び出した。
 
127 : 最終退室者(6/6)[sage] 投稿日:2009/06/21(日) 02:59:10 ID:Ji+DSlua0 [6/7回(PC)]

その階段も真っ暗に消灯されている。 
元々、動体センサーで動くものを捉えて蛍光灯が点灯するようになっていたので、 
気にせず階段の手すりを手探りで探し当て、転げ落ちるように階段を駆け降りた。 

自分を追いかけるように背後から点灯していく蛍光灯。 
その光に励まされながら階段を降り続け、自分のオフィスがある6階まで辿りつくと、 
非常ドアを引き開けた。いつもと変わらない明るい共用部分にほっとする。 

8階の開かずの個室だが、これまで変な噂は一度も聞いたことがなかった。 
我々の会社の他の人間も時折8階のトイレの個室を使う者がいたようだが、 
私のような体験をしたものは1人もいなかった。 

この話は会社の誰にも相談できなかった。 
だがそれ以降、どんなことがあっても決して最終退室者にならないよう、 
気をつけたのは言うまでもない。