262 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] : 投稿日:2003/05/28 13:49:00
四年ほど前に祖母が亡くなりました。 
数年間患った後、病院で息を引き取りました。 
いよいよ病状が重くなる前は自宅で療養しており、当時浪人中だった 
私が主に祖母の世話をしていました。 

正直祖母の世話は負担でした。 
トイレに連れて行ったり、寝具を整えたり、細々とした仕事の他に、 
少々ぼけも始まった祖母の、とりとめもない話につきあわされるのが 
苦痛でした。 
浪人中と言うこともあり、自分が同じ立場の受験生から置いて行かれる 
ような不安も感じ、両親に何度もグチをこぼしたものです。何で私だけ、 
というやり場のない不満ばかりが募っていきました。 
そんなこともあり、祖母への応対もつっけんどんな態度になりがちだった 
と思います。 
病状が重くなって入院する段になっても、これで厄介払いできるという 
ほっとした気持ちがなかったと言えば嘘になります。 

病状が好転しているのか悪化しているのか分からないままに一月程が 
過ぎた夜、雪が降っていたのは覚えています。 
こたつに入ったまま参考書を開いていたのですが、ついうとうとと 
まどろんでしまいました。 
ふと、肩に誰かが触れて目を覚ますと…祖母が目の前にいました。 
入院前よりも一回り小さくなって、ちょこんとこたつの上に正座して… 
一瞬、この世の存在ではない、と悟りました。 
こたつから飛び出るように後じさり、座椅子にぶつかってそのまま 
動けなくなってしまいました。 
祖母が、いや、祖母だったものがこたつの上から降りて、するすると 
近づいてきました。 


263 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] : 投稿日:2003/05/28 13:50:00
ご免なさい、おばあちゃん。でも私にだってやりたいことはあったの。 
おばあちゃんだけに全てをささげるなんて出来ない。 
100点じゃなかったかも知れないけど、一生懸命世話したじゃない… 

言い訳が頭の中を巡りますが声が出ません。 
動けない私の前まで来て、祖母が私の手を取りました。心臓をつかまれた 
ような恐怖を感じました。 
…と、祖母は両手で私の手を握り、「ぱたぱた」と振りました。子供が 
するような握手。 
縛られた何かが解けたようになって、祖母の顔を直視すると… 
祖母は笑っていました。暖かく笑っていました。 
そして祖母の姿がすっと消えました。 

放心状態の私の耳に、電話のベルが聞こえてきました。 
用件に確信を持ちながら出てみると、母の涙声が聞こえてきました。 
祖母がたった今、息を引き取ったと。 
「おばあちゃん、間際にみんなの名前を呼んで、ありがとうって… 
あなたの名前もう一回呼んで、ありがとうって…」 
受話器にしがみつくようにしながら、嗚咽を抑えられませんでした。 
祖母はお礼を言いに来たんだ。ありがとうって、ただそれだけ。 
祖母の姿に恐怖していた自分が、愚かしく、情けなくって仕方なかった。 
もっと…もう少しでも…優しくすればよかった。 


生きている人間の心に、やましさがなかったなら、 
死んだ人を恐れないですむのでしょうか…?