406 : kagiroi ◆KooL91/0VI [sage] 投稿日:04/08/07 00:41 ID:SptJlQZf [1/23回]
これも知り合いのお話で申し訳なが、ひとつ。 

その人も一人で山に入って、 
そんなに険しい場所に行くわけでもないんだけど 
単独でのキャンプが好き、という程度。 
近所の山、頂から街の灯が見える程度だけど 
奇麗な川と静かな森に入って、一人静かに本を読んだりしてる。 

その日も一人でお気に入りの峰を上って、いつもよりもやや 
高い場所で野営する事にした。そんなに大きく場所は違わない。 
軽い食事を済ませるとウィスキーを舐めながらお気に入りのカンテラで 
いつものように読書をしていたらしい。冬の剣岳や白馬なんかにも登ったという 
結構な猛者だから、深夜の闇などに脅えるわけでもなく、心静かに居た。 

ただ、その日は何かが違ったのだという。何かは解らないけど。 
夜も更けて街の灯かりも遠く感じる頃、異変が起こった。 
目の前の闇が動く。以前にも何度かそういうのに遭遇してるらしい。 
これは何かあるな、と思って、いつでも動けるようにシュラフだけで横になった。 
リュックを置いた方の闇が、揺れるように動く。何か居るわけでもないのに。


411 : kagiroi ◆KooL91/0VI [sage] 投稿日:04/08/07 01:02 ID:SptJlQZf [3/23回]
見ると良くないという知識からその人は見ないようにしながらも 
不測の事態に備えていつでも動けるように構えていた。 
やはり動く気配だけが背中の方から伝わってくる。 
これはまずいな。そう思った彼は寝袋から出ると 
それをそそくさと仕舞いリュックを背負った。 
来た。そう感じたので立ち上がり、暗いとはいえ慣れた道だったので 
カンテラを頼りに歩き始めた。野犬や何かの動物なら走るとまずい。 
ゆっくり、しかし少し大股に歩くと何かにぶつかった。 

何だ?カンテラで照らすがただの闇。少しの恐怖心から後ずさりすると 
やはり何かに当たった。振り返り照らすとやはり闇。 
試しに左右にも動いたが遊歩道にも関わらず、何かにぶつかる。 
囲まれた。味わった事のない恐怖から立ちすくむ。 
目を凝らすとやはり暗闇が少し揺れながら動いているのが解る。 
これはまずいなぁ。諦めかけたその時、前方に人の気配がした。 

そこには複数の人間。解る人には解るのだが、菅笠をかぶり 
背中を支えで押されながら漆黒の闇を歩き修行をする高僧の一行。 
助けを求めようと動いた時、目の前の闇が素早く動いて掻き消えるように感じた。 
前へ。進める。すぐ側まできたその一行に声をかけて事情を説明すると 
それはこの辺りにいる妖しだろうとの事。あなたが居たのはそのものの居場所。 
彼らとて居場所を無くして彷徨っているのだから、無闇に入ってあげないで欲しいと言われた。 

後日、その場所をまた訪れてみると、自分がよりかかっていた大木の上方に 
細い古い注連縄と、その裏に解読不明の文字が書かれた石碑がひとつあったそうな。 
入らずの山。結構身近にもあるものだと教えてもらった。