667 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/08/17 00:36 ID:xes23ovJ [1/12回]
知り合いの話。 

まだ学生だった頃、彼女の村では火事が相次いで起こったという。 
放火と思われたが、山間の小さな集落ということもあり、そんなことをすれば 
すぐ村の皆にわかる筈だった。 
それだのに、犯人の見当もつかない。 
住人は戦々恐々としていたらしい。 

ある夕暮れ、彼女はお使いを謂い付けられて家を出た。 
近くの店で豆腐と味噌を買ってから家路に着く。 
近道をしようと、近所の畑に踏み入った。 

その時、視界の外れに、誰かが立っているのが見えた。 
畑の端に大きな柿の木があって、その根元にひょろりとした影一つ。 
見知っていたお婆さんだ。白い着物を着ていた。 
どこかに違和感を感じ、すぐにその理由に思い至る。 
その老婆は、前年の暮れに亡くなっていた。 


668 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/08/17 00:38 ID:xes23ovJ [2/12回]
(続き) 
動けなくなった彼女の目の前で、老婆はカラカラと笑い始めた。 
どこか大事な物が切れてしまったような、そんな笑い方だった。 
ただもう恐ろしく、ぺたんと腰を落としてしまったという。 
同時に、パチパチという音が聞こえてきた。 
慌てて振り向くと、その畑の持ち主の家が燃えていた。 

火は初めは小さかったが、すぐに大きく燃え広がった。 
それを見た老婆は頭を振りたくり、ますますカラカラと笑い続ける。 
まるで老婆の哄笑に合わせるように、火はどんどんと激しくなっていった。 

彼女はしばらく呆然としていたらしい。 
正気に戻ると、既に火は消し止められてい、家は燃え落ちずに済んだようだ。 
老婆はいつの間にか姿を消していた。 
消防団員が「大丈夫か」と声をかけてきたが、腰が抜けたようで歩けなかった。 



669 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/08/17 00:38 ID:xes23ovJ [3/12回]
(続き) 
放火魔を見たということで、彼女は警察の事情聴集を受けた。 
信じてくれるかわからなかったが、見たままを話した。 
案の定、呆気に取られたような顔で何度もくり返し確認されたそうだ。 
意外なことに、何人かの官が「やっぱり」という表情をしていた。 

どうやら、放火騒ぎのあった家々とその老婆は、何かの事情で揉めていたらしい。 
家に帰ってから家人にそう聞いたのだという。 
その詳細までは教えてはくれなかった。 

あっこの家のモンは、死んだ後の方が恐ろしい。 
大人が小声でそう言っていたのを、なぜかよく覚えているのだそうだ。