909 : 都内のクラブ勤務の三十路 ◆MISOJIxNeg [] : 投稿日:2003/05/04 00:13:00
アタシが中学生の頃に、学校の先生が体験したお話です。 
若い男性の教師で、趣味が登山だったのだそうです。 

ある日の早朝、先生は、友人と2人で、近場の山に出掛けました。 
それ程、高さがない山なので、半日ほどで登頂・下山が出来る 
と踏んだ彼らは、山の両端から一人で登り、山頂ですれ違い、 
下山をするという方法をとる事にしました。 
そうすれば、夕方には、麓へ達する事が出来るはずでした。 
先生が早速、歩き始めた矢先、激しい雨が降り出しました。 
ぬかるんだ土に靴を取られつつ、数時間歩くうちに、 
雨は止みましたが、山頂へ達する頃には、 
陽が沈んでしまっていました。 

幸い、登山コースには、道なりにロープが渡してあります。 
暗い山道への不安はありましたが、持参したライトを点け、 
注意深く下山を試みる事にしました。 

(続く) 


910 : 都内のクラブ勤務の三十路 ◆MISOJIxNeg [] : 投稿日:2003/05/04 00:24:00
小一時間ほど歩いた時、前方に、 
人家を思わせるような灯りが・・。 
木々の隙間から、ちらちらと光って見えます。 
しかし、その山中に建物があるという話は、 
聞いた事がありませんでした。 
不審に思いながら、歩き続けていると・・・ 
その「灯り」が、登山コースの路上にある、なにか 
小さなものが光っているらしい事に、気がつきました。 

更に近づいた時に・・・ 
その「灯り」には、目と鼻と口がある事が見てとれました。 
そして、灯りを覆う、人がたの黒い影が。 
登山コースの路上に、髪の長い女性が立っていて、 
その「顔」が、ほの白く常闇で光っているのでした。 

(続く) 



912 : 都内のクラブ勤務の三十路 ◆MISOJIxNeg [] : 投稿日:2003/05/04 00:41:00
・・・・!!! 
先生は、悲鳴を噛み殺しました。 
助けを求めようもない、人けのない山中です。 
どのように逃がれるべきかを、必死で考えました。 
引き返して、反対側の斜面から下山をする体力は、残っていません。 
となると、一本道ですから、前方にいる、 
得体の知れないものの傍近くを、避けて通るわけにはいきません。 
ロープを握る手に、冷や汗が滲みます。 
そして。 
前方の「なにか」を無視する格好で、その脇をすり抜け、 
下山をする事にしました。 

「見てない・見てない・俺はなにも見て・ない・・」 
心の内で念じながら、歩を進める先生。 
そして、その「顔が光っている女性」のすぐ横を通った時・・ 
前方の虚空へ向けられていた顔が、先生へと向けられました。 
先生の歩みに合わせ、顔がゆっくりと移動します。 
両者が、完全にすれ違いになった次の瞬間、 
耐えられなくなった先生は、全速力で山道を駆け降りました。 

(続く) 



913 : 都内のクラブ勤務の三十路 ◆MISOJIxNeg [] : 投稿日:2003/05/04 00:55:00
恐怖に駆られ、走り続け、しばらく後、 
山道が途切れ、開けた平地へと辿り付きました。 
息を弾ませ、しばし、放心する先生。 

その肩を、背後から、何者かが軽く叩きました。 
咄嗟に、先生は頭を抱えてしゃがみこみ、 
「ひーーーーっ、ひーーーーーっ」 
声にならないような、掠れた悲鳴をあげました。 
その肩を更に強く掴み、「おい、大丈夫か?」 
声を掛けたのは、懐中電灯を手にした友人でした。 

先生の友人の方は、早い時刻のうちに、登山を断念していたとの事。 
一向に下山して来ない先生を心配して、麓のあちこちを、 
捜索してくれていたのでした。 

(終わり)