833 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/12(水) 21:24:04 ID:MTvviti50[1/2回(PC)]
 わたしが小学生のころ、近所の小さな山の斜面に”防空壕(ぼうくうごう)” 
という横穴がありました。 
 防空壕とは、日本とアメリカが戦争をしていたとき、アメリカの飛行機 
がおとす爆弾から逃れるために掘られた穴のことです。 
 その防空壕のなかは、壁や天井の表面が土のままの、せまい部屋に 
なっていて、わたしと友だちはそこを遊び場にしていました。 
 ある日、友だちと防空壕のなかで遊んでいると、市役所のおじさんたち 
がやってきました。 
「この防空壕は古くて、いつくずれてもおかしくないんだ。だから、ここで 
遊んでいては危ないよ」 
 そう言うと、わたしたちを防空壕から追いだしたのでした。 
 次の日、防空壕のところへ行くと、その入り口は積み上げたレンガで 
ふたをされていました。市役所のおじさんたちが、防空壕のなかに入れ 
ないようにしたのです。 
 もうここでは遊べないんだと淋しい気持ちになっていると、レンガの壁 
の向こうから人の声が聞こえました。 
 その声はとても小さくて、何を言っているのかわかりません。 
 わたしは何だろうと思って、壁に耳を当てます。


834 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/12(水) 21:26:14 ID:MTvviti50[2/2回(PC)]
 すると、その声は段々と大きくはっきりと聞こえるようになり── 
 ついにわたしの耳元で── 
「出してくれぇ、出してくれぇ!、俺たちをここから出してくれぇぇぇぇぇ!」 

 日本とアメリカが戦争をしていたとき、アメリカの飛行機がおとす爆弾 
から逃れようと、防空壕にたくさんの人が逃げこんできたそうです。 
 しかし、爆弾のひとつが山の頂上におちて、逃げこんできた人たちを 
”生き埋め”にしてしまったのです。 
 爆弾から生き残った人たちがけんめいに掘り返すと、防空壕のなかに 
いた人たちは土砂に押しつぶされていたり、息ができなかったりして、み 
んな死んでいたそうです。 
 防空壕の入り口をレンガでふたをしたことで、死んだ人たちに”生き埋 
め”にされる恐怖を呼びおこしたのかもしれません。 
 そしてなにより、たくさんの人が死んだ場所を遊び場にしていたことに、 
わたしは怖くなってしまいました。