113 : 1コピペ ◆ozOtJW9BFA [] 投稿日:03/06/05 22:06 
Hさんは私と同年代の漁師さんで、このお話は、彼の若い頃のあまりにも悲しくつらい実体験です。 
Hさんは遠洋漁業の長い航海から戻り、3ヶ月の休暇中にお見合い話が纏まって、 
 夢のような新婚生活に入ることが出来てとても幸せでした。 
 新妻は内気でおとなしく、Hさんは信頼されている喜びと、いとおしさを実感していました。 
しかし、短い休暇はまたたく間に終わり、また遠く長い航海に出なければなりません。 
 結婚間もない新妻はHさんと離れるのを嫌がり、 
 泣きながら「船に乗らないで」と何度も何度も哀願したそうです。 
でも、契約上のこともあって急に船を降りられず、 
 止める新妻を振り切り、後ろ髪を引かれる思いで航海に出ることになりました。 
 航海に出てしばらくの間は、お互いの安否を電報で知らせ合っていましたが、 
 本格的な操業になるに従って、いつしかお互いの連絡も間遠くなっていきました。 
いつも気持ちの中では新妻のことを気にかけていたのですが、 
 連絡が無いのは新しい生活に慣れたのだろうと、良いように解釈していましたし、 
また、そうであってほしいと心から願っていました。


114 : 1コピペ ◆ozOtJW9BFA [] 投稿日:03/06/05 22:07 
長い航海も1年以上過ぎ、操業も終盤に入って、帰国まであと1ヶ月ほどのある穏やかな日の午後。 
1羽の白い鳥が船に飛来しました。 
すぐに飛び去るような気配は見られません。 
 乗組員たちが珍しがって眺めていると、船の周りを少し飛び回っていましたが、 
なんと、驚いたことに開いているドアから船内に飛び込んでしまいました。 
 白い鳥を船から出してやろうと皆で追いかけましたが、 
とうとう一番下の機関室に入り込んでしまい、それっきりいくら探しても見つけることが出来ませんでした。 
 皆は口々に「不思議なこともあるものだ」と言い合ったのですが、 
 「そのうち見つかるだろう」と大して深刻には考えませんでした。 
ところが、その日からHさんは夜毎すさまじい悪夢にうなされることになったのです。 
きつい労働から開放されて、船室の明かりを消して仮眠を取ろうとすると、 
 天井の隅に真っ白な着物姿の女性が浮かびあがり、両手を広げ、カッと目を見開き、 
 真っ赤な口を大きく開け、般若面のような恐ろしい形相で、 
 幾度となくグワーッとHさんに襲いかかってくるのです。


115 : 1コピペ ◆ozOtJW9BFA [] 投稿日:03/06/05 22:08 
あまりにしばしば同じ夢を見るため、 
 「これはきっと家族に何かあったに違いない」と確信して、 
電報を打ってもらったのですが、いくら待っても妻からの返事はありませんでした。 
 黒く膨らむ不安を抱きながらも、船の帰港を待つしかありませんでした。 
そして、あと7日で八戸港にて下船、 
そこからすぐ妻の待つ三沢市に帰れると、 
 確かな帰港予定が分かった時、会社から連絡電報が来ました。 
 「横浜港ニテ下船サレタシ、本社総務部マデオイデ請ウ」 
 身支度もそこそこに横浜で途中下船し、 
 迎えの高級車で本社総務部に出向くと立派な応接室に通されました。 
すぐに部長が現れ、ソファに姿勢を正して腰掛け、 
 「これからお話しする事をどうぞ落ち着いて聞いてください。 
 実はお伝えしなければならないことがございます」 
と切り出したのです。


116 : 1コピペ ◆ozOtJW9BFA [] 投稿日:03/06/05 22:08 
そしてHさんは、自分が船に乗ったあと、新妻が不安からかノイローゼになり、 
言動・行動も不安定だったので、 
 四六時中、それとなく家族が慰めたり、支えたりしていたのですが、 
それも報われず、1ヶ月前に妻がノイローゼの果てに無残な死を遂げたという衝撃の事実を知らされたのでした。 
 「やっぱり、あの白い鳥は妻だったのか」 
 不安で泣く新妻を振り切って乗船したことを悔やみ、嘆き、慟哭しましたが、 
もうこの世に愛する妻はいないのです。 
その後、Hさんは再び遠洋漁業の船に乗ることはなく、 
 亡き奥様の供養をなさりながら、沿岸漁業の漁師さんとして暮らしておられます。 (合掌