559 : 雷鳥一号[] : 投稿日:2003/05/05 04:22:00
私がまだ大学生だったときの話です。
当時、私たちは隣町の同じコンビニでバイトをしていました。
バイトの時間は、私は土日の夜中だけ、H君が平日の午後、
そしてO君が水~金の夜中と、見事にバラバラでした。
その日は平日だったのですが、なにやら朝から伝票の整理とか
大仕事があったとかで店長さんが忙しく、H君は交代のO君が
来てもまだ店長に付き合って残っていたそうです。
店長がその日の事務仕事を片付け終わり、H君も最後の掃除を
終えて帰り支度を始めたときのこと。
店番をしているO君が青い顔をして奥に入ってきました。
ただ事ならぬ雰囲気を感じとり、店長が尋ねました。
「どうしたん、O君よ?」
「今、自動ドアが開いたんです・・・誰もおらんのに」
「たった今? でもチャイムは鳴らなかったよね。」
「いや、それが・・・僕の目には見えへんのですけど・・・」
コンビニには防犯用のモニターが設置されていました。
このモニターはレジでも奥でも見られるようになっています。
O君が口ごもったのを見て、二人はそれを覗き込みました。
インスタント食品の棚の間を、髪の長い女性が歩いていたそう
です。白いワンピースでふらふらと。首を左の肩につけるくら
いに折り曲げて。
(続く)
560 : 雷鳥一号[] : 投稿日:2003/05/05 04:23:00
(続き)
一目見て、これは普通の生きている人間ではないと感じたそう
です。ヨタヨタと歩を進めるたびに、首がぶらぶらしています。
「やっぱりここのモニターでも見えるんですね・・・この人、
目じゃ見えないんですよ」
O君の小さな声を聞きながら、店長もH君も固まっていたとか。
「それでですね、ブックコーナーで立ち読みしているお客さんが
一人いるんですけど・・・一体どうしましょう?」
三人は顔を見合わせ、そのままモニターの前から動けなくなり
ました。件の女性は店内をあてどもなく歩き回っていましたが、
やがて目標を定めたようにブックコーナーへ向かいました。
ブックコーナーには確かに男性客が一人いました。
小太りで眼鏡をかけ、トレーナーとジーンズ姿で、一心不乱に
男性週刊誌を読み耽っていたそうです。
女性はどんどん客に近づいていきます。
「・・・これって知らせた方がよくないですか?」
「幽霊が後ろに立ってますって声かけるのか?」
「いや、なんか、それもちょっと・・・」
誰も絶対にその女性の近くに寄りたくなかったんだそうで。
三人が見守る中、男の後ろでそれはピタッと立ち止まりました。
(続く)
561 : 雷鳥一号[] : 投稿日:2003/05/05 04:23:00
(続き)
やがて女性は激しく首を振り始めました。
身体の動きに一テンポ遅れて首が振られるのが、じつに恐ろしく
異様な光景だったそうです。
しかし、男性は気付く様子がありません。
首を振りながら、女は男の後ろをウロウロし始めました。髪の毛
がばさっと乱れます。
しかし、それでもやっぱり、男はまったく気付かないのです。
いや、初めて男が動きました!
さては気が付いたか、と思いきや、今度は別の週刊誌を手にとっ
て読み始めました。ああ。すぐ後ろでは首ぶら女が激しく身体を
打ち振っているというのに。
そのうち、女性は身体を揺らすのを止め、ふらふらと店から出て
行きました。やはり自動ドアは開いたものの、チャイムは鳴らな
かったのだそうです。
店長はしばらく呆然とした後、頭を一つ振ってレジの方へ向かい
ました。残る二人もついて行きました。
(続く)
562 : 雷鳥一号[] : 投稿日:2003/05/05 04:24:00
(続き)
三人は、しばし無言で立ち読み男を見つめたそうです。
自分を見ている視線に気付いたのか、男は急に立ち読みを止め、
飲み物とスナックを手にしてレジに歩いてきました。
何を感じたのか、少し申し訳なさそうな顔をしています。
レジの上に商品が置かれても、三人は黙って男を見ています。
男は不安になったようで、しばらくモジモジしていましたが、
「あの、それを買いたいンですが、レジをお願いします」
と言ってきました。
店長が一言答えました。
「気付いてやれよ!」
「???」男は何を言われたのかさっぱりわからないようで、
目を白黒させていました。
傍観者が思わずそう言いたくなるくらいに、女が後ろで揺れてい
た時間は長かったそうなんです。最初は恐ろしくてどうしようも
なかったのが、最後は「あー、もうっ!」てな感じで焦れてしま
ったのだとか。
私はこの話を聞いて、自分の夜勤のときにもこの人は来るのだろ
うかと、しばらくドキドキして仕方がありませんでした。見てみ
たいような見たくないような。
この一回きりで、その女性が姿を見せることはなかったようです。
私の身近で起こった、恐ろしくてしかしどこか抜けてる話でした。
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