812 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] : 投稿日:2003/04/27 02:11:00
先日、逆松竹梅のことを書かせていただきましたが、今回はそのときに起こった 
ちょっと奇妙な話です。 

先の話の中で父親が末期の胃ガンと診断され、郷里の病院でその年を越すことな 
く他界したと書きましたが、その臨終の席での話です。 
父は痛み止めのモルヒネを打たれていたようですが、意識はまだはっきりとして 
おり、心配そうに見守る私たちに対して「なにを大げさな」という感じで応じて 
おりましたが、ふと、病室の片隅に目をやると「あそこにいる人は誰だい?見た 
ことがないのだが・・・」と私に尋ねました。 


813 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] : 投稿日:2003/04/27 02:12:00
つづき 

父の指さすのは病室の入口とは反対側、窓に面した側の片隅でした。窓から少し 
離れていたので多少影になっていますが、充分に識別できるだけの明るさはあり 
ました。しかし、父の指すその片隅には誰の姿も見えません。 
病室に入る前に先生から宣告され、覚悟を決めてはいたのですが、その父の言葉 
で「ああ、いよいよか・・・」と改めて父の最後を確信しました。 
以前読んだ心霊関係の本や、あるいは人づてに、臨終の席にはいわゆる「お迎え」 
が来ると聞いていたからです。 
「ああ、あの人なら心配いらないよ」 
私は父にそう告げると、部屋の片隅に向かって頭を下げました。 
見えていたからではありません。気配を感じたわけでもありませんが、父がこれ 
から旅立つ、その導きをしてくださる存在なのだと信じて、「父をよろしくお願 
いします」というつもりで頭を下げたのです。 
父は私の答に納得したのかどうか、以後、その片隅の人の話題は出ませんでした。 
やがて、父は大きないびきをかきはじめ、のどに痰が絡んだかのように息を詰ま 
らせると、そのまま動かなくなりました。 

片隅の人が、死に神と呼ばれる存在なのか、それともお迎えと呼ばれる存在なの 
か、それともその二つは同じ存在を指す言葉なのか、私には今でもわかりません。 
ただ、私が臨終を迎えるとき、たぶんその片隅の人は姿を現すのではないかと、 
そうして、私はそのとき「よろしくお願いします」と頭を下げるのではないかと 
想像してみたりしています。