2017年09月

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    頼りなくまたたいている明かりの下、最初の曲がり角を越えると土蔵の入り口が見えた。そろそろと歩み寄り、小さな鉄製の扉を手前に引く。 
    きぃ…… 
    耳障りな音がして、同時に真っ暗な扉の奥からどこか生ぬるいような空気が漏れ出てくる。扉は狭く、それほど大柄でもない真奈美でも、身を屈めないと入ることが出来ない。 
    真奈美は身体を半分だけ扉の中に入れ、腕を回りこませて壁際を探る。白熱灯の光が、暗かった土蔵の中に広がった。ホッと人心地がつく。 
    もはやそれを手に取る主のいない骨董品や古民具の類が、四方の壁に並べられた棚や箪笥の上にひっそりと置かれている。 
    本当に値打ちのあるものは終戦の前後に処分したと聞いているので、今残っているのはそれを代々受け継いできた自分たちの一族にしか価値のないもののはずだった。 
    真奈美は懐から写真を取り出す。ご丁寧にも叔父が、くだんの茶壷が紹介された雑誌の切抜きを送ってきたのだった。 
    それと見比べながら、壷などが並べられている一角を往復していると、どうやらこのことらしい、というものを見つけることが出来た。 
    なるほど、形や色合いは確かに似ている。しかし手に取ってみるとやけに軽く、まじまじと表面を眺めると造作も安っぽく思われた。 
    やはり叔父の思い違いだ。そう思うと少し楽しくなった。 

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    「二年くらい前だったかな。ある旧家のお嬢さんからの依頼で、その家に行ったことがあってな」 
    オイルランプが照らす暗闇の中、加奈子さんが囁くように口を動かす。 
    「その家はかなり大きな敷地の真ん中に本宅があって、そこで家族五人と住み込みの家政婦一人の計六人が暮してたんだ。家族構成は、まず依頼人の真奈美さん。 
    彼女は二十六歳で、家事手伝いをしていた。それから妹の貴子さんは大学生。あとお父さんとお母さん、それに八十過ぎのおばあちゃんがいた。 
    敷地内にはけっこう大きな離れもあったんだけど、昔よりも家族が減ったせいで物置としてしか使っていないらしかった。その一帯の地主の一族でね。 
    一家の大黒柱のお父さんは今や普通の勤め人だったし、先祖伝来の土地だけは売るほどあるけど生活自体はそれほど裕福というわけでもなかったみたいだ。 
    その敷地の隅は駐車場になってて、車が四台も置けるスペースがあった。今はそんな更地だけど、戦前にはその一角にも屋敷の一部が伸びていた」 
    蔵がね…… 
    あったんだ。 
    ランプの明かりが一瞬、ゆらりと身をくねらせる。 

    【土蔵 前編】の続きを読む

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    そのとき、強い風が吹いて全員の髪の毛をなぶった。髪の短い方が、その髪を手で押さえながら、不快げに眉間を寄せる。 

    「おいおい、あのときの覗き魔かよ。憑りつかれてるのか思ったのに、仲良しこよしじゃないか!」 

    一人で笑っている師匠に、女の子たちの空気が凍りついた。 

    「なにを言っているの」 

    髪の短い方が冷淡に言い放つ。 

    「なにって、しらばっくれるなよ。ひっかいてやったろ」 

    指先を曲げて猫のような仕草を見せる師匠の言葉に、彼女は怪訝な顔をする。
    師匠もすぐに彼女の顔を凝視して、おや、という表情をした。 

    【気がつくと、風はもう止んでいた 後編】の続きを読む

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    「曽我タケヒロか」 

    師匠はその住所をメモして友人の家を出た。 
    曽我の住んでいるアパートは市内の外れにあり、僕は師匠を自転車の後ろに乗せてすぐにそこへ向かった。 
    アパートはすぐに分かり、表札のないドアをノックしていると、隣の部屋から
    無精ひげを生やした男が出てきて、こう言った。 

    「引っ越したよ」 


    「いつですか」 

    ぼりぼりと顎を掻きながら

    「四、五日前」

    と答える。ここに住んでいたのが、曽我という学生だったことを確認して、
    引越し先を知りたいから大家はどこにいるのかと重ねて訊いた。 
    すると、その隣人は

    「なんか、当日に急に引っ越すからって連絡があって、
    敷金のこともあるのに引越し先も言わないで消えた、って大家がぶつぶつ言ってたよ」

    と教えてくれた。 

    【気がつくと、風はもう止んでいた 中編】の続きを読む

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    大学二回生の夏。風の強い日のことだった。 
    家にいる時から窓ガラスがしきりにガタガタと揺れていて、嵐にでもなるのかと何度も外を見たが、空は晴れていた。変な天気だな。そう思いながら過ごしていると、加奈子さんという大学の先輩に電話で呼び出された。 
    家の外に出たときも顔に強い風が吹き付けてきて、自転車に乗って街を走っている間中、ビュウビュウという音が耳をなぶった。 
    街を歩く女性たちのスカートがめくれそうになり、それをきゃあきゃあ言いながら両手で押さえている様子は眼福であったが、地面の上の埃だかなんだかが舞い上がり顔に吹き付けてくるのには閉口した。 
    うっぷ、と息が詰まる。 
    風向きも、あっちから吹いたり、こっちから吹いたりと、全く定まらない。台風でも近づいてきているのだろうか。しかし新聞では見た覚えがない。
    天気予報でもそんなことは言っていなかったように思うが…… 
    そんなことを考えていると、いつの間にか目的の場所にたどり着いていた。
     

    【気がつくと、風はもう止んでいた 前編】の続きを読む

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    A子が小学時代の話なんだけど(学年はわからない)、A子の小学校の周りには 
    川があって、ある日その川のほうから大勢の子どもの笑い声が聞こえてきたんだって。 

    【笑い声】の続きを読む

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    早朝のできごとだった。
    バリバリという激しい音に最初は豪雨かと思って窓を開けたら右の方から火が出ていた。 
    こりゃやばいと思ってバッグを掴んで外に出ると 
    ほぼ同じアパートと言ってもいいぐらい近い場所にあった隣の古いアパート(実際何故か繋がっていた)
    の真ん中の部屋が近づくことも無理なぐらいごうごうと燃えていた。

    【ああ、中に人がいたんだな…】の続きを読む

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    当時創立一年というその病院は、できた当初からスタッフの間で何かと噂があった 
    私もそんな話はよく耳にしていたけれど、怖がってたら夜勤できないしと思い、
    あまり気には止めてなかった 
    そんなある日の夜勤。私以外にヘルパーのAさん、看護師のBさんは、いつもの様に夕食後の業務を一通りこなし、ナースステーションで一息ついていた。時間は夜9時を過ぎていたと思う 

    【その病院は当初からスタッフの間で何かと噂があった】の続きを読む

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    この間、中学時代の同級生から聞かされた話なんだけど。 
    そいつの弟はちょっと前に自殺してたんだよね。 
    なんか、バイトしていた天丼屋をクビになって、頭から高温の天ぷら油を浴びて 
    大やけどした挙句死んだとかで。 

    【頭から高温の天ぷら油を浴びて 大やけどした挙句死んだ】の続きを読む

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    私の母は小さい頃から霊感強くて、その筋の人から占い師になれだとか
    バリアー(?)張る方法を身につけるべきだとか言われてる。 
    で、飼い猫が化けて出たとか原爆資料館の時計が飾ってるところで
    入っちゃいけないはずの場所に人影がいっぱいあったとか、 
    ジュースを飲む幽霊が髪の毛引っ張ってきたとか
    (この話は昔本当にあった怖い話で紹介されたけど、知ってる人いるかな?)
    色々聞いてきたけど、その中でも一番怖いというか悲しい話。 

    【母は小さい頃から霊感強くバリアー張る方法を身につけるべきだとか言われてる。】の続きを読む

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