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    「二年くらい前だったかな。ある旧家のお嬢さんからの依頼で、その家に行ったことがあってな」 
    オイルランプが照らす暗闇の中、加奈子さんが囁くように口を動かす。 
    「その家はかなり大きな敷地の真ん中に本宅があって、そこで家族五人と住み込みの家政婦一人の計六人が暮してたんだ。家族構成は、まず依頼人の真奈美さん。 
    彼女は二十六歳で、家事手伝いをしていた。それから妹の貴子さんは大学生。あとお父さんとお母さん、それに八十過ぎのおばあちゃんがいた。 
    敷地内にはけっこう大きな離れもあったんだけど、昔よりも家族が減ったせいで物置としてしか使っていないらしかった。その一帯の地主の一族でね。 
    一家の大黒柱のお父さんは今や普通の勤め人だったし、先祖伝来の土地だけは売るほどあるけど生活自体はそれほど裕福というわけでもなかったみたいだ。 
    その敷地の隅は駐車場になってて、車が四台も置けるスペースがあった。今はそんな更地だけど、戦前にはその一角にも屋敷の一部が伸びていた」 
    蔵がね…… 
    あったんだ。 
    ランプの明かりが一瞬、ゆらりと身をくねらせる。 

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    そのとき、強い風が吹いて全員の髪の毛をなぶった。髪の短い方が、その髪を手で押さえながら、不快げに眉間を寄せる。 

    「おいおい、あのときの覗き魔かよ。憑りつかれてるのか思ったのに、仲良しこよしじゃないか!」 

    一人で笑っている師匠に、女の子たちの空気が凍りついた。 

    「なにを言っているの」 

    髪の短い方が冷淡に言い放つ。 

    「なにって、しらばっくれるなよ。ひっかいてやったろ」 

    指先を曲げて猫のような仕草を見せる師匠の言葉に、彼女は怪訝な顔をする。
    師匠もすぐに彼女の顔を凝視して、おや、という表情をした。 

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    「曽我タケヒロか」 

    師匠はその住所をメモして友人の家を出た。 
    曽我の住んでいるアパートは市内の外れにあり、僕は師匠を自転車の後ろに乗せてすぐにそこへ向かった。 
    アパートはすぐに分かり、表札のないドアをノックしていると、隣の部屋から
    無精ひげを生やした男が出てきて、こう言った。 

    「引っ越したよ」 


    「いつですか」 

    ぼりぼりと顎を掻きながら

    「四、五日前」

    と答える。ここに住んでいたのが、曽我という学生だったことを確認して、
    引越し先を知りたいから大家はどこにいるのかと重ねて訊いた。 
    すると、その隣人は

    「なんか、当日に急に引っ越すからって連絡があって、
    敷金のこともあるのに引越し先も言わないで消えた、って大家がぶつぶつ言ってたよ」

    と教えてくれた。 

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    大学二回生の夏。風の強い日のことだった。 
    家にいる時から窓ガラスがしきりにガタガタと揺れていて、嵐にでもなるのかと何度も外を見たが、空は晴れていた。変な天気だな。そう思いながら過ごしていると、加奈子さんという大学の先輩に電話で呼び出された。 
    家の外に出たときも顔に強い風が吹き付けてきて、自転車に乗って街を走っている間中、ビュウビュウという音が耳をなぶった。 
    街を歩く女性たちのスカートがめくれそうになり、それをきゃあきゃあ言いながら両手で押さえている様子は眼福であったが、地面の上の埃だかなんだかが舞い上がり顔に吹き付けてくるのには閉口した。 
    うっぷ、と息が詰まる。 
    風向きも、あっちから吹いたり、こっちから吹いたりと、全く定まらない。台風でも近づいてきているのだろうか。しかし新聞では見た覚えがない。
    天気予報でもそんなことは言っていなかったように思うが…… 
    そんなことを考えていると、いつの間にか目的の場所にたどり着いていた。
     

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    A子が小学時代の話なんだけど(学年はわからない)、A子の小学校の周りには 
    川があって、ある日その川のほうから大勢の子どもの笑い声が聞こえてきたんだって。 

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